シン映画日記『少女は卒業しない』
Movix三郷にて朝井リョウ原作の日本映画『少女は卒業しない』を見てきた。
主演は『サマーフィルムにのって』の河合優実で、
廃校になる山梨県の県立高校の卒業前日と卒業式に臨む少年少女数人をドキュメンタリータッチで群像的に描いた青春群像劇。
進路が早く決まったために卒業式で答辞を読むことになった料理部のまなみ。
卒業後に東京の大学で心理学を学ぶバスケ部の後藤は地元の大学に通う予定の寺田と別れていることを後悔している。
クラスに馴染めずにいる内向的な作田は図書室を管理する坂口と会い、卒業当日のクラスでの振る舞い方のアドバイスをもらう。
卒業式後に卒業ライブを控えた軽音楽部の森崎は自分が所属するエアバンド「ヘブンズ・ドア」がライブのトリを取ることに悩むが、部長の神田は中学の頃からの森崎のある一面を知ることからライブに向けて秘策を立てる。
イケメン・美女の青春群像のアオハルものと思いきや、意外にも『桐島、部活やめるってよ』や主演の河合優実が出ていた『サマーフィルムにのって』の系譜の青春群像劇。
複数の少年少女が卒業式を明日に控えた様子を映すサマはどことなくロバート・アルトマン監督の作品を匂わせるが、見ていて「これ、サスペンス要素とかないから考え過ぎかな……」と思いきや、
しっかりとロバート・アルトマンのテイストの映画だったことに驚いた。
この映画が単なるアオハルものじゃないなと思ったのは主演の河合優実が演じるまゆみと
中井友望が演じる作田というキャラを見てだね。
いわゆる、美男美女の恋愛ばかりでなく、答辞を担当することになりつつ何か過去の出来事にトラウマを抱えるまゆみと
クラスの中でも浮いてる“ぼっち”の作田を出すことで鬱屈した少女たちのリアリズムを見るものが痛感する作りになっている。
軽音楽部の「ヘブンズ・ドア」のエピソードもしかり。軽音楽部の実力・人気を兼ね備えたバンドではなく、ゴールデンボンバーみたいなエアバンドで、しかもデスメタル風という完全に色物のバンドが冷やかし人気で卒コンのメインを張るという捻くれた設定が実に良い。
しかも前座になる二組もKiroroタイプのデュオユニットと高校軽音楽部バンドの王道タイプのバンドというのもポイントで、
ここだけ抜き出しても十分名作になりそう。
唯一、王道アオハルものになるのがバスケ部の後藤と寺田の離れ離れになりそうになる二人のエピソード。花火というアイテムやお互いの進路事情をうまく使い、もどかしい二人を演出している。
比較的メインとなるまゆみのエピソードは肝心な部分はあまり見せないスタイルで、こうした演出に慣れてない方にはもどかしいかもしれないが、
それこそ『桐島〜』だったりマリオン・コティヤール主演の『エディット・ピアフ』でも近い演出はあったので、映画をミステリアスにし、ただの青春群像劇にしなかったことを高く評価したい。
それこそロバート・アルトマンの遺作になる『今宵、フィッツジェラルド劇場で』を微かに匂わせる映画でもある。
しかしながら、廃校になる高校の卒業式としてはちょっと薄味な気がしてならない。惜しい。
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