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シン映画日記『せかいのおきく』

テアトル新宿にて黒木華主演、阪本順治監督作品『せかいのおきく』を見てきた。

『どついたるねん』や『大鹿村騒動記』、『冬薔薇』を手掛けた阪本順治監督による江戸末期の庶民目線の時代劇映画。
全編の9割5分がモノクロで、ほんの一部カラーになる特殊な映像演出で、安政から万延〜文久の、安政の大獄や桜田門外の変といった出来事を中心に、鎖国から開国したての揺れる江戸末期の日本の関東の片隅の市井の人々の悲喜こもごもを描いている。

安政5年、おきくは寺小屋で子供たちに読み書きを教えながら、元武士で浪人になった父・源兵衛と二人で暮らす。ある日、源兵衛が侍たちに襲われ、これにおきくが巻き込まれ、一命をとりとめるも喉に重症を負い、声を失ってしまう。そんな中で下肥買いの矢亮の下で働く中次はなんとか意思疎通を取ろうとする。

ストーリーは主に浪人・源兵衛の娘のおきく目線の話と
汚穢屋の矢亮、
紙屑屋から矢亮の汚穢屋の手伝いをするようになった中次のエピソード。
だいたいこの3人の話に集約されている。
特に長屋に住む職人等の庶民らとその付近に住む武士の
便所、肥溜め周りのトラブルの話が多い、というかそればかり。
映画の6割ぐらいは汚穢屋の汲み取り、糞尿の受け取りなどのルーティンを見せ、
江戸末期の公衆衛生事情と
読み書きが出来ない汚穢屋の若者たちの行く末を見守る展開。
身分にするとおそらく士農工商以下の穢多という身分に当たるのであろうけど、
ほとんど糞まみれなナリからそうとう臭うため
武士や武家屋敷の使用人、庶民からも蔑まれ、
読み書きも出来ない矢亮はそれでも頭を下げて糞尿の下取りをする。

こうした士農工商以下の身分の人の目線の話というのは珍しく悪くはないが、
矢亮の下卑た態度や
中次の「兄貴、そんなんでいいの?」というちょっと恥じらいの心が見え、
糞尿まじりの人間臭さが伺える。

おきく目線のエピソードは前半の声が出る時はとにかく小うるさい、気丈な娘で、
事件以降の中盤以降はその反動で憐れみが増す。
そこからの再生劇になるが、
後半は壮絶さ、重さは薄い。
例の事件以降は怪しい侍等は一切出ないので若干重めのヒューマンドラマに終始。
落とし所は分からなくもないが、
中次や矢亮とおきくの交わりは思いの外少ない。
まあ、最近の阪本順治監督の映画って『半世界』にしろ『冬薔薇』にしろ薄めのヒューマンドラマが多い。『一度も撃ってません』は若干ハードボイルドの味わいもあるが。

佐藤浩市は前半のみだし、
石橋蓮司は相変わらずいいけど脇役に徹していたし。

悪くはないけど、
もう一つ、ガツンと来なかったかな。

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