『選ばなかったみち』見た直後の雑記
MOVIXさいたまにてサリー・ポッター監督・脚本作品『選ばなかったみち』を見てきました。
見る前は地味そうなフライヤーから「寝ちまうんじゃね?」って思ったけど、
なんと、認知症映画の大傑作でした!!!!
ハビエル・バルデムが演じる主人公レオは認知症を患った小説家で、離れて暮らす娘モリーがレオの歯科と眼科の通院を手伝う。そんな一日を映した映画。
この映画が凄いのは、認知症の主人公をヘルプする側の視点と認知症を患う本人の現在進行の目線、それと認知症患者の深層心理を映像化し、レオの現在進行とレオの深層心理を行ったり来たりすることでストーリーが展開する。
そのレオの深層心理はさらに2つの物語があり、一つはかつての恋人ドロレスとのシーン、もう一つはギリシャに小説を書きに来て謎の美女2人組と遭うシーン。
現実はボケボケにボケた頭で行く先々で粗相をしでかし、娘モリーに迷惑をかける。その際のレオは心ここにあらずな状態で、心はドロレスとの思い出かギリシャにある、となっている。
認知症の患者が主人公の映画といえば、山崎努主演の『長いお別れ』がある。しかしながら、『長いお別れ』は主人公がボケ始めてから数年を一気に見せる構成だったのに対して、『選ばなかったみち』はある一日と主人公の2つの追憶で構成し、映像と自然な流れのディテール語りで主人公レオの周りを取り巻く状況・過去が徐々に分かる。
この現実と主人公の深層心理が行き来する展開は『ジョニーは戦場へ行った』に非常に似たもの。さらに主人公の深層心理を映像化した描写そのものは極めて自然。ミッシェル・ゴンドリー監督の『エターナル・サンシャイン』や『恋愛睡眠のすすめ』、さらにはクリストファー・ノーラン監督作品『インセプション』みたいな人工的なものではなく、あくまでも認知症患者の深層心理という所がいい。よくドラマの過去回想のシーンがあるが、あれとも近いようで違う。主人公の魂のありか。これを名優ハビエル・バルデムが見事に演じている。
それでいてエル・ファニングが演じる娘モリーの他者・家族視点もお見事。見事な振り回されっぷりで、後半には彼女の裏にあるドラマもあり、介護をする家族のリアリズムを痛感できる。
アクション等の香ばしい展開を抜きに、とことんヒューマニズムの真髄を見せられる。作品数は少ないが『愛をつづる詩』や『ジンジャーの朝 〜さよなら、わたしが愛した世界』など確実に心に響くヒューマンドラマを描くサリー・ポッター監督の渾身の逸作!!
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