蔵出し映画レビュー『ストリート・オブ・マイ・ワイフ』
久しぶりの作品になった『心と体と』がわりと良かった記憶があるイルディコー・エニェディ監督の新作。
1920年代のマルタ、パリ、ハンブルク等のヨーロッパを舞台に、男気溢れる船長ヤコブがひょんなことから見知らぬ女性リジーにいきなり求婚し、あっさり結婚からの男と女の大人の駆け引きをプロローグ+7章の物語で見ていく展開。出会いから結婚への成り行きこそはナンパな動きだが、基本的には無骨で男気溢れ、まっすぐ・真面目なヤコブに対して、隙あらば社交場(今で言うクラブ、ディスコ)に遊びに行き、他の男と愉しむリジー。
貨物船の船長のヤコブはマルタのカフェで友人との遊びから、その場で出会った女性リジーに求婚し、いきなり結婚することに。ある日、夫婦で社交場でのパーティーに参加すると、リジーは謎の男デダンと親しげにし、ヤコブは不快になる。
この水と油のような2人だけど、どちらかというとナンパされた側で若くて綺麗なリジーの方が上位の夫婦関係で、あろうことか真面目なヤコブに不倫のススメまでしだす。この大胆さと、ヤコブの翻弄されっぷりが面白い。
加えて、リジーの不倫相手のデダンのミステリアスさや、真面目なヤコブの若い女友だちとの微妙な関係や、随所に出てくるヤコブの悪友コードーらのサロンの怪しさなど、およそ1世紀前のヨーロッパの社交界と船乗りの世界観を存分に味わえる。
この「およそ1世紀前のヨーロッパ」の世界観、価値観というのがこの映画を愉しむ重要な要素になる。何かと男らしさアピールがあり、これが主人公ヤコブのキャラクターにおいて重きを置いている部分である。かと言って、ミソジニー/を描いたわけではなく、また女性監督視点のミサンドリーを描いたわけでもない。強いて言うなら雄々しさとかダンディズムであり、そこをミソジニー/ミサンドリーにならないギリギリの線で描いている。前世紀ならではの価値観を楽しむ映画でもある。
それと、セックスシーンもガツンとあり、モロ見えでなくても、バチュバチュと音を立て実に生々しく、嬉しいオマケ。
久しぶりに骨があるヨーロッパ映画を堪能した。さすがはイルディコー・エニェディ監督である!