【娘におくる手紙】 11か月、「一緒なら、むてき」
▼10か月、はじめて喋ったことば
今日もあなたに手紙を書きます。
「なにかを意識しだすと、世の中はそれだらけに見える」という感覚。“今日は赤い色を見つける”と決めると、車や看板や人々の洋服など、赤いものに目が行く、というあれです。
あなたがお腹にいるときに、街なかには突然妊婦さんがあふれていて、こういうことか!とすごく新鮮でした。
(実際のところは、あなたの生まれた年は出生数が過去最低とニュースでも報じていたから、妊婦さんは増えていなかったのですが)
あなたがうまれてからは、街や駅やショッピングセンターはベビーカーだらけです。
どのベビーカーからも、小さな足やむちむちの手がのぞいている。
赤ちゃんってほわほわで、ほけーっとした表情で、こちらを見ていても目が合っているのかどうか怪しいくらい。
だけど、あなたの場合は、道ゆく人をとにかくじーっと見ています。見られている側がたじろぐくらいの凝視です。
バスや電車に乗っていると、知らないおばさんなんかが「いいこねぇ」と話しかけてくれることもあります。
そうするとあなたは、にこりともせず、でも泣きもせず、ただひたすら真顔でじーっとその人を見ている。
目は絶対にそらさない。まばたきもしていないんじゃないかと思うくらい。
おばさんたちは皆、「あらまぁ」とか言いながらあなたを笑わせようとしてみたり、手を振って反応を期待しているけれど、あなたは本当に微動だにせず、ずっと真顔でじっと見ている。
そうすると皆大概、ちょっと困った顔をして、最後に「かわいい」と言いながらふふふと笑っておしまいになります。
あの“かわいい”は、「ずっと見られて困っちゃった、降参」っていう意味だとお母さんは思ってます。
あなたはどんなことを考えて、みんなを見ていたのですか?
この話をおばあちゃんにしたら、「あなた(=母)が小さい時は人見知りがはげしくて、スーパーで人が向こうから歩いてくるだけで大泣きしていた」と言われました。
それに比べるとあなたはいつもどっしりと構えて、全然泣きません。
そういえば、まだ生まれてすぐの小さな頃から、あなたと散歩に行くたびに「お母さんと一緒だから、⚫︎⚫︎ちゃんはむてき」といつも話しかけていました。一緒だから安心してねと。何度も何度もおまじないのように。
それが赤ちゃん離れした落ち着きの理由かは分からないけれど、今お出かけ中のあなたに怖いものは無し。無敵のまなざしでベビーカーからじーっとまわりを見渡す、なんとも頼もしい赤ちゃんです。
でも、無敵のあなたが、4か月くらいのときに突然ベビーカーに乗るのを嫌がるようになった時期がありました。
お散歩中も抱っこしないと大泣きで、母は連日空っぽのベビーカーを押しながら帰りました。しまいには玄関に連れて行くだけで泣き叫び、外に出るのを断固拒否するように。
困ったなぁと思って気が付いたのは、そのとき使っていたベビーカーが進行方向を向いているタイプだったこと。あなたから見える世界にお母さんがいないことに気付いたんじゃないかと察しました。
「あれ、お母さんがいないから、いまはむてきじゃない。どうしよう。」
って不安で泣いて訴えていたのかも。
案の定、対面のベビーカーを新調したらすぐに全然泣かなくなって、また無敵のあなたになりました。
今、11か月になるあなたは、かくれんぼでお父さんが扉の影に隠れてもそこにお父さんがいると分かるから覗きに行くし、お母さんが見えなくても大きな声で呼べば抱っこしに来てくれることを知っている。
目に見えているもの、触れているものが世界のすべてだった頃から、ほんの数ヶ月であなたの世界が広がり、厚みと複雑さを携えてきていることに気付くのです。
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