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2018年4月の記事一覧
4.1.1. ケーススタディ(1) 「給湯流茶道」
戦国時代の武将が戦の合間に抹茶を飲んでいた景色をそのまま,現代のサラリーマンとOLが戦うオフィスビルへと持ち込んだと自認する「流派」がある。
会社の給湯室を茶室に見立てたことから始まり,抹茶を点てるのに最低限必要である茶筅 [注16] 以外の道具を全て「見立て」ている。
茶道において一般に「見立て」とは,本来は茶道用の道具ではないものを茶道具として取り込むことを指す。
千利休の師であったとされ
5.1. 社会人かつ茶人であるということ
第1章(1.3.1.参照)でも述べた理由から,本稿の主要なインフォーマントは、現役の会社員や,退職し独立した人々である。
そのため,彼らの「お茶」以外の生活について伺うことは,仕事について伺うことでもある。
彼らの「お茶」がどのように日々の中で存在しているのかを,会社生活との対比によって浮かび上がらせたい。
インタビューに関して
インタビューの日程として,週末は,インフォーマント自らが主催
4.7. 小括:「今ここ」にいる「自分」は,「伝統」に先立つ
「伝統」に「対抗する方途」
茶会という「今ここ」を体現する空間では,「創意工夫だったりとか,そこに込める気持ち」によって,流派とのヒエラルキーも覆されると洋平さんは話していた。
この思想は,それまで血統や「伝統」の正統性の上で行われていた議論を,別の土俵に移したものである。
第2章(2.2.3.)でも触れたが,血統の正統性を持たない市民が貴族に「対抗する方途」は,「何者かではなく,どのように
4.6.2. 流派への想いの二重性:感謝と個人的思惑のアンビバレンス
流派への「感謝」に加えて
どのインフォーマントも,常に流派への尊敬の念と感謝を述べていたが,その経緯は単純なものではない。
まずどのインフォーマントも,茶道の土台を作った流派への尊敬の念は口にする。
「茶道団体」の活動が「茶道」であるには,流派や家元がまず存在しなければいけなかったと考えていたのは大輔さんだ。
海外の門弟もお茶を習える環境をつくったから,あれだけ海外でも茶道が認知されてるの
4.6.1. 流派との共存を巡って
組み込み(Incorporation)理論
ある流派では,家元の教室で直々に指導を受けられる研修を行っている。
そこに参加すると,より家元に近い人々と顔を合わせることになる。
その研修に参加してきた大輔さんは,「茶道団体」の活動が家元側にも知れ渡っており,家元筋の人々が「茶道団体」の活動に理解を示していたと語る。
ただ,大輔さん本人が「本質的に受け入れられてるか分からないですけど」と付け加え
4.6. 流派からの歩み寄りと組み込み(Incorporation)
ここまでは「茶道団体」側から,どう流派と共存しているのかを論じてきた。
ただしこの節では,流派や茶道教室から見た「茶道団体」について論じる。
前節までは,従来の「茶道」から逸脱しているように見える本稿のインフォーマントも,流派に対抗している訳ではないことを描写してきた。
一方で流派側も「茶道団体」を無視できなくなりつつあり,むしろ歩み寄りも見せる場面もあった。
このセクションでは,本来は生徒
4.5.2. 「茶道団体」と流派の「役割分担」
この項では,多くのインフォーマントの口から聞かれた「役割分担」という観点に絞って掘り下げたい。
前節までで概観してきたように,「茶道団体」と流派は,最終的な目的が異なっており(4.5.1.参照)茶会の形式も異なっているように見える。
しかしその二者は決して,反発し合いながら同時代に存在している訳ではない。
「茶道団体」の思う流派の役割
大輔さんは,家元筋が奇抜な格好で茶道をしたら人々から非