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5.1.3. 「どのようにお茶を続けるか」≒「どのように働くか」

現代では,家元が会社勤めと並行して流派を運営することもある。
家元を勤めるような定年前の働き盛りの人々が,茶道教室や流派の運営だけに従事することは,以前より少なくなりつつある。

ただし本稿では,代々続く茶道教室を継いで茶道の教授者となった人々は研究対象にしていない。

むしろ,家業を継ぐ義務を負っていないにも関わらず,仕事と同程度に「お茶」に取り組む人々を,主要なインフォーマントに据えている。
そのような人々は,家元とは異なるモチベーションで「お茶」に取り組んでいると考えられるからだ。

この条件に合致するのが,「茶道団体」の代表者たちである。


残業の合間のお稽古

達也さんは会社員時代,平日の夜に職場から徒歩圏内の茶道教室に通っていた。

会社の同僚が晩御飯を食べに行くタイミングで,人知れず稽古に行っていたと当時を振り返る。
その茶道の稽古の後に,また会社に戻って残業をしていた。

会社の飲み会もあまり参加しなかったと語り,なんとか茶道のための時間を捻出していた様子が伺える。


その後,「会社員が向いていないことが分かりましたので」と会社を辞めた。
現在は収入源を「お茶」一本に絞っている。
(収入源としての「お茶」に関しては5.2.以降で後述する。)


こうした会社員時代を,「週1(の稽古)で,仕事とかの世俗の塵を落としていた」と表現する。
今は「お茶」が日常になり,「茶禅一味みたい」な生活を送っていると話していた。


達也さんは会社員時代から,「茶道団体」をはじめとした「お茶」の活動も進めていた
その頃から「お茶」専業になることを目標に準備していたのだろう。

筆者との初対面のときも「もっと早く独立すればよかった」と笑っていた。


限られた時間で「お茶」をすること

同じく脱サラした翔太さんも,「学生のときにお茶してるのと全然違う」と語る。

現役の会社員も,独立した人も,彼らの問いは翔太さんの言葉に集約できよう。

時間が無いから,どうやってこの限られた時間の中でお茶をするか。
もしくはしないか。


すなわち,お茶を続けるか続けないかという問題に「続ける」と心を決めた後,新たに生起する問いは,「どうやってこの限られた時間の中でお茶をするか」なのである。

「なぜ茶道をするのか」を探求し続けてきた茶道研究者の関心はさておき,インフォーマント自身にとっての問いは,「どうやってお茶を続けていくのか」であるといえよう。


茶道の稽古以外で,どうお茶を続けていくか

大多数の茶道修練者にとっては,「どうやってお茶を続けていくのか」という問いは,「どうやって茶道教室に通い続けるのか」という質問と同義である。

しかし,「茶道団体」を主宰するインフォーマントにとってのこの問いは,もう一つ違う含みを持つ。

彼らは茶道教室での稽古以外で,どうやってお茶に取り組むかを自問しているのだ


「茶道団体」のような,教室内にとどまらない「お茶」をする人々の動機を探ることが本稿の目的の一つでもある。

そのため本章では「稽古以外の場でも,どうやってお茶を続けていくのか」という議論を深めていきたい。


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