【試算】教員に「残業代支給」 報道 実労働時間通り支払うと給料はいくらになる?
公立学校教員の給与制度が見直され、残業時間に応じた手当が支給されるようになるかもしれないというニュースが話題になりました。元記事の書きぶりを見る限り、実現にはいくつもの高いハードルがあるように思われますが、待遇改善そのものは多くの関係者が期待するところで、注目が集まっています。
本noteでは、現状で知りうる情報や公表資料を基に、「残業時間通りに給料が支払われたらどうなるか」を検証します。
※なお、本投稿は公表資料で示された残業時間や給与月額を基に大括りな試算をしてみただけのものですので、あくまで参考程度にとどめていただけたらと思います。その上で、引用する数字や算定の考え方に致命的な間違いがありましたら、コメント欄などでお示しいただけると幸いです。
・年齢別の月給支給額はどう変わるか
そもそも公立校教員の給与は、「月給の4%分の”教職調整額”を上乗せする代わりに残業代を支払わない」という、民間や他職種の公務員に比べて特殊な体系である点に特徴があります。なぜそのような体系なのか、その金額は現実の業務量に見合っているのかといった議論については、他の多くの先人たちが指摘する通りなので深入りしませんが、いずれにせよこの考え方は忙しすぎる教員の実態と乖離しているのではないかということで、文科省は教職調整額を4%→13%に引き上げる方針をすでに決めています。
その意味で、今回の報道が示す改革案は「あくまで現行法を踏まえた待遇改善を」という従来の国方針から大きく舵を切るものとなりますが、仮に現在の教員の勤務状況に基づき、労働基準法通りの「残業代」を払うとなると、個々の教諭の月給は一体どう変わるのでしょう。現行制度、文科省案(調整額13%引き上げ)、残業代支給の3パターンについて、小中学校別、年齢別の平均値を以下のグラフにまとめました。(計算方法は一番最後の項目をご覧ください)
概観するとわかるように、現行では勤務先や年代に応じて月20万円台〜40万円前半にとどまっているところ、残業代を支払った場合は小学校の20代教諭を除いて40万円を超え、40〜50代では60万円前後にまで増えることが見込まれます。それは裏返せば学校の先生がそれだけ忙しいということであり、このような実態から考えると、文科省案の「13%」は小ぶりな改革にとどまるようにも感じます。
・実効性はある?残業代支給の賛否
「残業代支給」によって劇的な処遇改善が見込めることから、現場教員の間では今回の改革案を歓迎する声が多く見られる一方、実現には莫大な予算がかかるため、支給対象が限定的になったり、そもそも計画自体が「検討倒れ」に終わることを懸念する意見もあります。たとえば教育研究家の妹尾昌俊氏は、以下のような運用になることを危惧しています。
個人的には、各種報道で伝えられている現状や現場教員の声を総合する限り、今の現場が求めている処遇改善は「賃金の引き上げ」よりも「人手不足の解消」の方がニーズが高いように感じます。業務量に見合った賃金体系の実現には、「賃金を引き上げること」と「業務量を適正化すること」の2点からアプローチする必要がありますが、後者の努力が圧倒的に足りていないのではないでしょうか。これは現場の「働き方改革」(=業務量削減)が全く進んでいないと言いたいわけではなく、それを帳消しにするスピードで人手不足が進み、改革の努力が「焼け石に水」となってしまっている現状があるのではないかと想像しています。
今回の報道はまだ初報が出たばかりで詳細はわかりませんし、また記事中の表現が「残業代」ではなく「残業時間に応じた手当を支払う仕組み」となっている点も気になりますが、あくまで一つの考える材料として、本noteをご参考いただけると幸いです。
(了)
以降は先に示したグラフの「残業代」の計算方法を説明します。
・教員の「残業代」の計算方法
▶︎教員の残業時間
残業代の算定根拠となる教員の残業時間については、文科省が実施した「教員勤務実態調査(令和4年度)」で明らかにされている「1日当たりの在校等時間の時系列変化」(年齢階層別)から算出しています。まず、以下のグラフから平日・休日の在校等時間を抜き出します。
次に、上述の年齢別在校等時間を4週相当に換算し、1ヶ月あたりの総勤務時間を算出。そこから4週の法定労働時間(160時間)を引き、月の残業時間を求めます。校種別・年代別の1ヶ月平均残業時間は、以下の表ような状況になっていることがわかります。
表からはどの年代も長時間勤務であることがうかがえますが、とりわけ中学校の若手・中堅に関しては「過労死ライン(月80時間)超えが当たり前」という、凄まじい労働実態であることがわかります。なお、この試算はあくまで「4週間」の合計であり、また自宅などで行う「持ち帰り仕事」は含んでいないので、さらに長時間の労働が横行している可能性があります。
▶︎教員の給料
残業代の算定基準となる教員の給与月額は、総務省がまとめている令和5年地方公務員給与実態調査に記載の「小・中学校教育職」の給与から引用しています。
表の中の「平均給料月額」(基本給に当たる部分、教職調整額を含む)が、現時点で各年代の教員に支払われている給与月額の平均値になります。ここから残業時間と同様に10歳刻みの年代別平均値を弾き出したいところですが、記載されている年代区分が4歳刻みのものしかありませんので、便宜上「25歳」「35歳」「45歳」「55歳」を含む区分を「各世代の平均値」として扱うことにしています。(たとえば「20代」は「24〜27歳」を引用、「30代」は「32〜35歳」を使用)
その後、月額から教職調整額相当部分を引いた上で時給換算し、そこに労働基準法通り25%を上乗せして1時間あたりの残業代を求めます。これらの計算を経て、各手当の金額を算出したのが以下の表になります。本投稿の最初に示したグラフは、この表をもとに作成しています。
なお、上記の表は「基本給+教職調整額(or残業代)」を示したもので、各種手当(土日の部活指導などに伴う「特殊業務手当」など)は含まないため、実際の給与月額はさらに増える可能性があります。