希望をもたらす “接客” の力
column vol.885
昨日の【百貨店の “光” を求めて】でも触れましたが、小売業(リアル店舗)の一番の価値は人(販売員)にあると感じています。
ということで、前回の予告通り今回は「接客」をテーマに話を進めたいと思います。
「ユニクロ」「GU」と聞くと、お客さまがご自身で商品を探すセルフ買い物方式というイメージが定着していますが、運営するファーストリテイリングでは、やはり「接客はプレミアムなもの」であると考えていらっしゃいます。
その想いを形にされているのが「予約制の接客サービス」です。
GUでは、昨年秋に出店したマロニエゲート銀座店、大阪・天王寺ミオ店、ルミネ横浜店で、接客に力を入れているのです。
「接客強化」に舵を切るGU
ECがすっかり定着したアフターコロナの時代の中で実店舗の価値を再考するといった文脈のもと、この予約制の接客サービスを実施しているのです。
〈WWD JAPAN / 2022年12月29日〉
GUでは独自の認定試験を設け、販売員の接客力を育成。
接客はまず、肌の色が黄ベースか青ベースかを元に、似合う色を判断するパーソナルカラー診断からスタートします。
ファッション誌でもカラー診断はよく取り上げられているので、自分が “イエベ(イエローベース)” なのか、 “ブルベ(ブルーベース)” なのか、ご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか?
GUでは専用のリーフレットや店内に掲出されたシートを見ながら、チャート状の質問に答えていきます。
鏡の前で布を当てて診断する百貨店のコンサルティングに比べると、少し簡易的に感じられるかもしれませんが、そこは接客力。
チャート上にはない「日焼け後の肌はどうなりますか?」「腕の血管は透けて青く見えますか?」といった質問を交えながら、診断は進行していきます。
そして、次は骨格診断です。
体形を “ストレート” “ウェーブ” “ナチュラル” の3つに分類。
こちらも最近ではすっかりお馴染みの光景になってきていると思います。
とはいえ、なかなかドンピシャで分類にハマるわけでもありません。
その辺は「どちらかというと、こちらの傾向が多めです」といった感じで、良い意味でファジーに診断。
このような診断とお客さまご本人の希望をお聞きしつつ、最適なスタイル、アイテムを提案していきます。
所要時間は30分強〜1時間弱。接客自体に費用はかかりませんので、気軽に試せるサービスです。
買い物迷子になりやすい30〜40代に人気
マロニエゲート銀座店ではオープン以来、10〜60代までの幅広いお客さまにこうした予約制接客を行ってきたそうですが、店全体として一番予約数が多いのは、やはり30〜40代の女性客とのこと。
実は私のクライアント(商業施設)でも、この世代のパーソナルスタイリングサービスは大変人気です。
やはり自分もそうですが、何でも似合っていた20代の頃とは違います。
一方で30〜40代は仕事に育児に時間がない…
しかも、お子さんがいらっしゃる家庭では、お金の面でも自分のファッションへの優先順位は低くなってしまいます……
失敗が許されないので…、どんどん服装が無難なものになりがちです…
だからこそ、こうしたパーソナルスタイリングサービスは相当な武器になります。
これまでは、百貨店など比較的高価格帯の商品を展開する場でのサービスとして見られていましたが、リーズナブルな価格帯のGUがこの分野を強化したということは、結構なインパクトを業界に与えていると感じます。
商業施設でいえば、ルミネが接客スキルの認定制度の「ルミネスト」を通して、テナント販売員の育成に力を注いだり、三越伊勢丹が小売の原点である「個客主義」に立ち返り、外商を強化するなど、やはり接客を制するものは小売を制すといっても過言ではないのではないでしょうか?
DXで進む販売員による「顧客化」
コロナ禍で商業施設も、テナントとして入る企業もDXが進みました。
この中で着目したいのが、販売員による「顧客化」が予想以上に進行しています。
とある他店舗展開するショッピングセンターの方に聞くと、ショップ間の異動の際、オンライン接客ができるようになったことで、前のお店の顧客が離れないケースが増えているそうです。
例えば、販売員が上野の店舗から横浜の店舗に異動しても、オンライン接客があれば、上野のお客さまは引き続き、その販売員に相談して購入することができます。
今までは異動したら “さようなら” でしたが、今はそうではありません。
接客力の高い販売員は、異動するたびにファンを増やすことができるのです。
そうしたことの1つの結晶として、昨日の大丸松坂屋百貨店の社内インフルエンサーの発掘・育成・活用という事例を見ていくと、単なる流行りものには見えないでしょう。
最近のトピックでいえば、スピンシェルが運営するオンライン接客ツールの「LiveCall(ライブコール)」が、初期費用・月額利用料を無料で利用できる「フリープラン」の提供を開始しました。
〈ITmediaビジネスオンライン/ 2022年12月3日〉
これでますますオンライン接客のハードルは下がっていくはずです。
全ての分野に求められる「原点回帰」
さらに、オンライン接客を一般化させた立役者であるバニッシュ・スタンダードの「STAFF START(スタッフスタート)」もジュピターショップチャンネル株式会社にサービスの提供を開始。
これまで通販番組はその臨場感、プレゼン力により、買いたい気持ちを掻き立てられる一方、自分に合うかどうか分からないという課題もありました。
しかし、ショップチャンネルスタッフが試聴者と個別にコミュニケーションをとることで、購入者の不安を解消した形で商品を提供することが可能に。
一方的な商品提案にならない、2WAYコミュニケーションを実現しようとしているのです。
新サービスは「ショップチャンネルピープル」という名前で、今月24日(火)よりウェブサイト上で公開されるので、ぜひ注目していきたいと思います。
ということで、各社の「接客強化」についてのエネルギーを感じていただけたでしょうか?
非常に当たり前のことをいかにクオリティ高くやっていけるのかどうか?
これも私の大好きな言葉です。
小さな積み重ねで、どれほど「とんでもないところ」までいくのか?
本日は小売業における「接客」をテーマにしましたが、どの分野も一度原点に立ちかえることが重要に思えます。
特に新年の始まりに一度考えておきたいとことですね。
本日も最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。