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「すでに起こった未来」を捕まえて

column vol.1057

「ピーター・ドラッカー」といえば、言わずもがな「マネジメントの父」であり、「未来学者」と評された偉人。

その卓越した先を読む力は、神がかっているとしか言いようがありません。

当然、私も若い頃よくドラッカーさんの本で勉強しました。

しかし、最近「ドラッカー」という名を聞くだけで、胸がキューと締め付けられるような気持ちになります。

それは、先代社長で昨年他界した谷口正和最後に「読め」と進めた本だったからです。

とはいえ、それは本人から直接聞いたのではなく、後輩から伝えられました。

当時、体の負担を減らすため、谷口との打ち合わせはかなり制限されている時期でした。

そんな中で彼が後輩に言伝してでも私に伝えたかったのが、「ドラッカーを読め」だったのです。

正直…、後輩からそれを告げられた時に思わず口にしたのは「そんなもん、とっくに読んでるわ!」という言葉でした。

若干気分を害しながら、そのままスルーしていたのですが、先代が他界した後、何か心に引っ掛かるものがあって、もう一度読み直したのです。

すると…

…まぁ、一度読んだと思えないほど、目鱗の連続…

昔読んだ文学をこの年で読み返すと全く捉え方が違うように、若い時には読み取れなかったドラッカーさんの多くの知見が目に飛び込んできます。

本とは読み時があり、それは同じ本でも何度かくる

ドラッカーさんの本はまさに今が読み時だったのです。

先代も相当影響を受けており、よく私に引用していた言葉が「すでに起こった未来」でした。

谷口正和といえば、マーケティングの世界ではちょっとした有名人でしたが、「未来予言者」だとさまざまな方々から評価されていました。

そんな谷口がドラッカーさん同様に口にしていたのは、未来予測とは先々を想像すること以上に「今を丹念に観察すること」

それはもしかすると気配のように儚いものかもしれない。

しかし、未来で起こることは、もうすでに起こっていることもあるのです。


今起きていることを丹念に観察する

元日本銀行総裁白川方明さんは、東洋経済オンラインの記事の中でドラッカーさんから学ぶべき3つのことを挙げていらっしゃるのですが

最初に挙げているのは「現在起きていることを観察するその姿勢」

〈東洋経済オンライン / 2023年5月29日〉

そして白川さんはこのように語ります。

例えば、金融政策の仕事もそうですけれども、経済予測よりはるかに難しいのは、今何が起きているかを知ることです。実はこれが分からないわけです。

また、よくメディアでも未来予測を求められる堀江貴文さんが、かつてこのように仰っていたことがあります。

私は預言者ではない。しかし、未来予測に関する話は、ものすごく私に期待されていることだと思う。私のメルマガにも「何年後に宇宙旅行に行けるようになるか?」や「この企業の株価は上がるか?」、「為替はどうなるか?」などなどの質問が数多く寄せられる。
しかし、私が話せるのは、既存のパラメータに基づいた相対的未来であり、決定的な未来、例えば株価が上がるか下がるかといった絶対的な未来を高解像度で予測することは不可能。

つまり、堀江さんにとって未来予測は今すでにある事象を的確に捕まえているだけということでしょう。

最先端のトレンドは最先端ではない

谷口が今を丹念に見ることが未来予測になると感じたのは、彼が若き日のこと、雑誌のINDEX分析だったそうです。

INDEXとは「目次」

目次を眺めていると未来が見えてくると悟ったわけです。

それはどういう意味か?

雑誌の目次は当然ながら、大特集から始まり、ページ後半になるにつれて記事の扱いが小さくなる

この後半の中には、まだまだニッチなもの実験的な企画・内容もあるわけです。

要するにまだマジョリティではないものなわけです。

しかし、そうしたマイノリティな事象雑誌の号が進むごとに、大きな扱いになっていくのを谷口は目の当たりにしたわけです。

テレビ番組でもそういうことってありますよね?

深夜枠でやっていた番組が徐々に市民権を得て、いつしかゴールデン番組に化けていく。

それと同じです。

トレンドセッターを務める雑誌の中で、そうしたニッチなものマイノリティなものこそ次のトレンドの種になるというわけです。

逆にすでに最先端なものはピークを迎えており、あと少しすれば落ちていく

だからこそ、今流行っているものよりも、まだ流行っていないものの方が最先端というわけです。

ですが、多くの人が “最先端” を最先端なものから見出そうとしてします。

一方で谷口は、まだ流行っていないものに目を向ける。

だからこそ「未来予言者」というポジションを確立できたのだと思います。

そして、その源流はドラッカーさんにある。

ご本人が未来学者として評価されているのにも関わらず、「社会生態学者」、つまり「今を丹念に観察する人」ということにこだわった理由が理解できます。

ニュートラルに「人間観察」をし続ける

そう考えると、実は未来の種過去の中にもあると思うのです。

よく歴史、トレンドは繰り返すと言いますし、それは誰もが知るところですが、あまり過去を見ながら未来予測をする人はいないと思います。

一方、谷口は今と同様に過去も重視した。

だからこそ、「ドラッカーこそにこの予測不能なVUCA時代を生き抜くための知見がある」と思ったのでしょう。

そして、平川さんが掲げる3大学ぶべきことの2つ目3つ目にも、谷口の目指した時流研究の在り方を感じます。

2つ目

政治、体制、イデオロギーといったものではなく、社会を観察する姿勢。

谷口は常に「ニュートラルであれ」と言っていました。

自分の主義主張を超えて、社会を観察する。

当社ではイマジナスという時流分析プログラムがあり、そこでさまざまな新しい事例が集まっているのですが、谷口が重視したのは、その事象に対してではなく、各参加メンバーの考察にありました。

1つの事象に対して、自分の考察との違いを丹念に読みとろうとしていたのです。

自分はこう捉え、考えるのに、なぜこの人は違った考察をするのだろう

と。

その違いを発見し、そこを深く掘り下げていく。

そうして、新しい気づきを得ていたのです。

ドラッカーさんからの学び最後の3つ目

社会にしても組織にしても、その動きを理解するときに、人間観察からスタートしていること。

よく「ウチの会社は〜」と話す人がいますが、会社なんてものは何の実態もなく、結局はそこに所属している社員の総和でしかありません。

ですから、私は会社の悪口を言っている人は、自分の悪口を言っていると捉えています(笑)

それは置いておいて、社会や時代も同じです。

社会も時代も、結局は人が生み出している。

私は分かりやすさを優先するために「時流研究」という言い方をしてしまいますが、谷口は決してそのように表現はせず「生活者研究」と言います。

それは、社会も時代も人を観察することでこそ読み解けるという認識があったからでしょう。

つまりは未来を予測するということは、今生きている人々をニュートラルなマインドで丹念に見ることと結論づけられます。

そうした彼の考えを、ドラッカーさんの過去に出した本を通して改めて感じています。

ということで、未来を読み解くヒントは過去のドラッカーさんの言葉の中にある。

だからこそ、ドラッカーさんの本が再注目されている所以なのでしょうね。

もしも、「ドラッカーさんの本を読んだことない」「昔読んだことあるけど、最近はない」という方がいらっしゃったら、ぜひ読んでいただけるとこれからのヒントが得られるかもしれませんよ。

もちろん、信じるか信じないかはアナタ次第です😊

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