小売界の救世主?「リテールメディア」
column vol.983
そう言えば…、最近専門である小売業の話をしてなかったなぁ…と今朝気づいたので…、今回は小売業界のトピックをご紹介したいと思います。
小売業では少子高齢化・人口減少という未来を予見し、フィンテックなど小売業態に囚われない新たな収益の創造が模索されています。
その中で注目を集めているのが「リテールメディア」です。
コロナを端とするステイホームのオンライン消費の活性化に乗じて台頭を見せています。
そこで本日はリテールメディアの可能性と収益化へのポイントを考えてみたいと思いますので、ぜひぜひ最後までお付き合いくださいませ。
リテールメディアとは?
まず、リテールメディアとはなんぞや?という話です。
実はさまざまな定義があるのですが…、一般的には小売企業が運営するECサイト上のオンライン広告や、アプリ内広告、店舗に設置されたサイネージ広告など「小売店が媒体社として提供している広告媒体」です。
その特徴は、小売企業のお客さまの購買データや、小売店アプリの利用ログなどの行動データなど、小売店が独自に収集・所有するデータ、いわゆる「ファーストパーティーデータ」を活用して、精緻なターゲティングを行い、広告を配信するというもの。
分かりやすい例で言えば、ショッピングセンターのデジタルサイネージでユニクロのCMを流す、それによって収益を得るといった感じです。
アプリやウェブサイトなどであれば、ショッピングセンターのお客さまのアクセス履歴などによるファーストパーティーデータを活用できる。
リテールメディアは10年以上も前からAmazonで展開されていますが、ECの拡大やブランドセーフティーが確保された安全な広告出稿先に対するニーズの高まりから、この3年で幅広く小売企業から注目されるようになりました。
また、サードパーティークッキー(訪れたサイト以外のドメインから発行されたクッキー)廃止の流れを受けて、堅固でプライバシーが保護されたファーストパーティーデータの利用が急増したことも大きいと言えます。
(ちなみに、ファーストパーティークッキーとサードパーティークッキーの違いを知りたい方はこちらも併せてご覧くださいませ🙇🏻♂️)
そうした背景により、小売企業による自社のリテールメディアネットワーク(RMN)の構築が進み、市場が拡大しているのです。
例えば、米大手小売りの代表格である「Target」のメディアネットワーク「Roundel」なんかがそうです。
26年には “800億円市場” に
そして気になる市場規模についてです。
アメリカ小売り業界のシンクタンク大手の「Coresight Research」は、2022年の世界のリテールメディア産業の売上総額は751億ドルで
2021年から80.1%増加し、最も急成長している広告チャネルの1つであると語っております。
〈Forbes JAPAN / 2023年4月6日〉
ちなみに、アメリカの小売大手「Walmart」の決算によると、2021年の同店のリテールメディアの売上は15億5000ドル。
巨額の収益となっております。
そして日本においても、電通グループ傘下の「CARTA HOLDINGS」が先日発表したリテールメディア広告市場の市場規模推計予測によると、26年には800億円を超える市場になるとのこと。
何より注目されているのが、リテールメディアは小売企業の中核事業である小売業よりも利益率が高いという点にあります。
今後ますます取り組みを強化していく企業は増えていくでしょう。
広告出稿の入門編は「エンデミック」企業
では、どんな企業を広告出稿のパートナーに選ぶと良いのでしょうか?
まず頭に浮かぶのは「エンデミック企業」でしょう。
エンデミック企業とは、小売に直接関わる企業です。
不動産賃貸業のショッピングで言えば、テナント企業ですし、百貨店・スーパーなど純粋な小売企業であれば、取り扱い商品のメーカーになります。
例えば、百貨店にとっての資生堂という関係です。
お互いが抱える顧客はとても近しいので、エンデミック企業としては広告出稿のメリットを感じやすいはずです。
一方、問題点もあります。
百貨店はさまざまなメーカーの商品を取り扱っているので、A社の商品が広告出稿によって物凄い売れたとしても、その分、他のB社、C社の商品が売れなくなるかもしれません。
つまり、カニバリゼーション(共食い)が発生してしまうというデメリットも見込まれます。
また、ショッピングセンターですと、そもそも広告宣伝費(販売促進費)の予算を支払っている分、テナント企業としては「ウチの商品はその中から宣伝してよ」と思うかもしれませんし
ディベロッパーも「それとは別に御社の自社広告を出稿しませんか?」とは相談しづらい可能性もあります。
「インエンデミック広告」に勝機あり
ということで、次に考えたいのが「インエンデミック企業」です。
インエンデミック企業とは、直接商品の販売は行わないのですが、補完的な製品やサービスを提供する企業のこと。
例えば、eスポーツの大会のスポンサーで考えてみると
小売企業にとっては、取り扱いのない商品を生産している企業がそうです。
例えば、スーパーでいえば車などがそうです。
確かに、これならカニバリゼーションは起こりにくいですが、その分、広告出稿のメリットを感じてもらうのもひと工夫必要になります。
上手いなと思った事例が、上記フォーブスジャパンの記事で紹介されていたベビー商品を販売する、ある小売企業の「インエンデミック広告」です。
この企業では、マタニティウェアやベビー用品を複数回購入するお客さまに対して自動車メーカーの広告を出稿することができました。
その理由は、赤ちゃんが生まれたら、車が欲しくなるもの。
大切な赤ちゃんを安心して乗せられる安全性の高い車やミニバンなどのファミリーカーを訴求したわけです。
20〜30代のお客さまが多く集まるショッピングセンターなら、ウェディング会場の広告なんかも、良いかもしれません。
インエンデミック企業に働きかけることで、よりパートナー企業の選択肢が広げられるというわけです。
「選ばれる企業」になるために
というように、リテールメディアの収益性を期待して、今後はより多くの企業がこの市場に参入することになるでしょう。
当然ながら、多くの企業が参入すればするほど、シェア争いは熾烈になります。
そこで選ばれる企業になるためには、メディアの価値(そのメディアが多くのお客さまに支持されている)や、ファーストパーティーの質、そして、広告主の出稿意義を見い出す戦略眼が、より一層求められていくでしょう。
私も数多の小売企業を見ておりますが、まだ取り組みをスタートできていない企業も多いでしょうし、リテールメディアのことを知らないエンデミック&インエンデミック企業もいらっしゃるはずです。
そうした企業のマーケティングセクションの方は、まずは事例も含めてまずは情報に触れていただくと良いかもしれません。
タイトルのように「救世主」まではいかないにしても、「一助」にはなるはずです。
ちなみに、もし良い広告をつくる企業が見当たらなければ、ぜひ当社にお声がけくださいませ(笑)