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地方を救う「物語」

column vol.1287

当社ではオフィスグリコを設置しているので、小腹が空いた時、ちょいちょい利用しているのですが、

最近、「ふるさと」をテーマにしたオフィスコンビニが誕生したようです。

〈PRTIMES / 2024年9月10日〉

生み出したのは、事業承継支援サービスを提供する株式会社エスプールブリッジ

地方創生支援の取り組みとして、地域特産品を販売する「ふるさとすたんど」の提供が開始されました。

企業地方自治体への設置を予定しているのですが、地域特産品に特化することで、導入企業は地方創生を応援できるというわけです。

このように地方創生の様々な工夫が、ますます見られている。

では、各地域が活性していくには何が必要なのでしょうか?

私は、その1つに「物語」があると思うのです。


15万強の街が「人口8%増」に

最近、オーストラリア「ギップスランド」という町の人口が増えているという興味深い話を見つけました。

わずか15万4357人の町なのに、ここ5年間約8%もの人口増を成し遂げているのです。

〈東洋経済オンライン / 2024年9月4日〉

立地が良いのかというと、そうではありません。

最寄りの大都市、州都メルボルンからは最短でも車で1時間40分

ベッドタウンとはなりえない場所なのです。

では、どうして人口が増えているのかというと、その理由の1つが「ガストロノミーツーリズム」

ガストロノミーツーリズムとは、その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ食文化に触れることを目的とした旅のこと。

ただ料理の美味しさを味わうのではなく、その背景にある「物語」を楽しむことが特徴です。

生産者に適切な価格を払う「フェアトレード」や、「産地のこだわり」など、料理の背景を学び1つ1つの料理に対しての造詣を深めていく

地元のレストランのオーナーシェフ、マッツさん

その場所に出かけていって、景色や空気とともに楽しむ。それがガストロノミーの1つの形だと思います」

と語っております。

例えば、モーツァルトの音楽は聴くだけではなく、彼の生い立ちやその曲が生まれた背景を知れば、より深く味わえるようになるという話と同じですね。

美食で広がる新しい雇用

「現地の空気を感じながら」という概念がポイントで、そうすると「現地を訪れること」がセットになります。

同じく地元のレストランのシェフ、ターニャさん

「たとえば、今は日本食が世界中で人気で、メルボルンでも素晴らしいものを食べられます。それでもわざわざ日本に行って本場の日本食を食べる人は多いです。それと同じで、お客様にギップスランドに来ていただくことで、より素晴らしい食体験を提供できます」

と解説しています。

現地を訪れる人が増えれば、宿泊施設など、地元の経済が活性化され、新たな雇用が生まれます。

当然、Uターン、Iターンする人が増えるわけです。

ターニャさんも、もともとは大都会のきらびやかな高級レストランで働いていた一人。

そうして、雇用が増えれば、ツーリストへのおもてなしや体験のレベルが上がり、そこに移住する人も増えていく

こうした好循環8%もの人口増につながっているわけです。

もちろん、ガストロノミーツーリズムだけが要因ではありませんが、単にグルメということではなく、物語を重ねていることがポイントでしょう。

お茶の価値を高めたツーリズム

ツーリズムということで、もう1つ事例に挙げたいのが、佐賀県嬉野「ティーツーリズム」です。

この旅では、嬉野市内を一望できる山の上の茶畑にある屋外茶室「天茶台」にて、3杯のお茶が振る舞われます。

その価格は、いくらだと思いますか?

〈PRESIDENT Online / 2024年7月14日〉

正解は、15000円

千五百円ではないですよ、1杯5000円となります。

それでもこの旅には多くのツーリストが訪れると言います。

こだわりのお茶を、こだわりの淹れ方で、名産の肥前吉田焼の茶器に注ぐ。

当然ここにも、お茶の「物語」を添えて楽しんでもらっています。

嬉野を一望できるロケーションも含め、その世界観が売れているというわけです。

もちろん、うれしの茶の高い品質があってこそ成り立っています。

しかし、嬉野全体でいえば、お茶の売上は厳しい状況ですし…、ティーツーリズムを行っている生産者たちも、以前は厳しい状況でした。

なぜかというと、日本ではお茶はタダで振る舞われることが多いからです。

外食に出掛けても、コーヒー、紅茶は有料なのに、水とお茶は無料という店が多い。

それは、嬉野でも同じなのです。

その状況を打破するため、行ったのが物語の創造でした。

“タダ”からの脱却に成功

最初のきっかけは、2016年に開催した「うれしの晩夏」というイベント。

そこで、上質なうれしの茶茶菓子を提供する喫茶空間「嬉野茶寮」を開いたことでした。

その時、企画のリーダーである温泉旅館「和多屋別荘」小原嘉元社長が、一緒に組んだ地元の生産者に伝えたのが

「お茶を一杯、1500円で売りたい」

ということでした。

この言葉に驚きながらも、挑戦したいと思った生産者の皆さんがこの話に乗り、まずは控え目にと、お茶一口菓子のセットを800円で提供。

すると、訪れたツーリストの間で評判になったのです。

このイベントに手応えを感じた皆さんが、その後、試行錯誤を重ねに重ね、今のティーツーリズムに磨き上げていきました。

どんなお茶を通した物語(旅の体験)を味わってもらえば、訪れた人たちが喜んでくれるのか?

そのことを突き詰めた結果、21年236人22年505人、そして23年542人と、ツーリズムに参加する人たちが増え、国籍も欧米中国シンガポールといったような感じで広がっていきました

さらに並行して、嬉野から外に打って出る取り組みも開始。

都内でのイベントなどを通じて関係性を構築した結果、名だたる高級ホテルとの取引が始まったのです。

例えば、「ブルガリホテル東京」のラウンジ、「ANAインターコンチネンタルホテル東京」のバーなどなど。

高品質なうれしの茶が次々と東京に進出していっている。

お目の高い富裕層の方々に評判のようで、「オリジナルの茶葉を作って欲しい」と、400万円分を個人で買っていただくこともあったそうです。

そうしてティーツーリズムに参加している生産者の皆さんはプロジェクトが始まる8年前に比べて、1.5〜2倍の売上になっているとのこと。

物語の持つ強さが、ヒシヒシと感じられますね😊

今回は地方創生というテーマで語って参りましたが、これは全ての商品の打ち出しにつながる話でしょう。

既存の価値を「再定義」し、ふさわしい「物語」を重ねていく。

ヒットの秘訣として、本日の2つの事例を参考にしていただけると幸いです。

本日も最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました!


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