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「電鉄」が結ぶ地域共生のカタチ
column vol.1125
先週、テレ東BIZの『日経ニュース プラス9』を観ていたら、東武鉄道が取り組む食品ロス削減と地域活性化についての事例が紹介されていました。
〈テレ東BIZ / 2023年10月12日〉
同社では、沿線の直売所で売れ残った農産物を鉄道で運び、都心の駅で販売する「農産物の直売事業」に取り組んでいます。
実現した食品ロス削減の量は2年間で約40t。
沿線エリアのESGに貢献しながら、旅客輸送に留まらない鉄道の新たな活用策を模索しているのです。
私は小売業のマーケティングを専門としていますが、電鉄系の商業施設も多いので、このような取り組みは非常に参考になります。
他にも、電鉄会社の地域共生に関するニュースをよく見かけるので、本日は東武鉄道の取り組みを皮切りに、私が気になったトピックスを3つほど、ご紹介させていただきます。
産官学一体で食品ロスを削減
この東武鉄道が取り組みは、株式会社コークッキング、東松山市、JA埼玉中央、大東文化大学、株式会社大塚応援カンパニーの5者と組んだ産官学連携プロジェクトです。
まずは、東松山市周辺の5ヵ所の農産物直売所で売れ残った農産物を株式会社コークッキングが買い取り、その日のうちに東武東上線 森林公園駅から列車で池袋駅まで輸送します。
そして、池袋駅 東武東上線南改札 券売機前の「TABETEレスキュー直売所」で大東文化大学の学生が運営に携わり、都心のお客さんに再販売。
日中販売して売れ残った新鮮野菜が夕方の帰宅ラッシュで次から次へと買われている様子がテレビで放送されておりました。
この取り組みは、今年の春、第6回ジャパンSDGsアワード(主催:SDGs推進本部、本部長:内閣総理大臣)において「SDGs推進副本部長(内閣官房長官)表彰」を受賞。
東武鉄道株式会社 鉄道事業本部 営業統括部長兼営業部長の池田直人さんは、この受賞を受けて
今後も多くの方々がSDGsに関心を持つきっかけとなるよう努めるとともに社会課題の解決を通じて、人にやさしく、人と地域が共に輝き続ける社
会の実現を目指してまいります
と抱負を語っております。
産官学が一体となった地域共生の理想的なプロジェクトとして、非常にヒントになる事例です。
高齢者と将来世代に優しい街へ
SDGsということでいえば、今年の夏に注目されたのが「宇都宮LRT」でしょう。
〈読売新聞 / 2023年8月25日〉
LRT とは「ライト・レール・トランジット」の略。
(1)低床車両や段差のない停留場で乗り降りが容易
(2)専用レールを走るため、時間が正確
(3)電気モーターで走るため二酸化炭素を排出しない
などの特徴があります。
富山市や広島市、松山市などでも採用されています。
宇都宮LRTは、宇都宮市と芳賀町の16.6kmを結び、高齢者のマイカーに代わる移動手段、温室効果ガスの排出抑制などが期待されているのです。
運営は「公設型上下分離方式」※。
※営業主体とインフラの整備主体とが原則として別人格であって、公共の財源によりイン フラを整備・保有し、営業主体を確保した上で、これを一定の考え方に基づき営業主体に対して貸付する方式。
運行は官民で出資する会社が行いますが、両市町は軌道の建設や停留場の整備だけでなく、停留場を発着する路線バスや乗り合いタクシーなど、交通ネットワーク作りも進めています。
さらに、沿線への商業施設や医療施設の誘致を進めて居住を誘導し、「コンパクトシティー」化を目指しているのです。
宇都宮市の佐藤栄一市長は
少子高齢社会の中、誰でも自分の意思で移動できることが、持続可能な街をつくるために重要
と、LRT 整備の意義を強調されております。
構想の検討が始まって以来、「事業費に見合った効果があるのか」といった議論が繰り返されてきたそうですが、運行会社は初年度から黒字を計画。
人件費などの開業までの損失は9年目に解消される見通しとのことです。
宇都宮LRTが成果を出せれば、今後のコンパクトシティづくりの後押しにあっていくでしょうね。
高齢者の心をつなぐ “ご近所SNS”
「少子高齢化」ということでいえば、知っていただきたい小田急の「ご近所向けSNS」についての事例があります。
〈東洋経済オンライン / 2023年10月9日〉
同社では、X(旧:Twitter)でもインスタでもない「自治体専用」のソーシャルネットサービスを開発。
地域のつながりが今後の社会を支える上での1丁目1番地
という意味を込め「いちのいち」という名前が付けられています。
えっ?何で、電鉄会社がSNSを開発するの??
と感じた方もいらっしゃると思いますが、実はこの専用SNS、小田急が2018年に設けた社員向けの新規事業公募制度「クライマーズ」から生まれたサービス。
発案者の東海林勇人さんは、祖母の「高齢者の社会的孤立」に直面した過去を思い出し、「いちのいち」を生み出したのです。
高齢者の方の中には、地方からお子さんの支援を受けるために、首都圏など今まで住んでいた地域を離れて暮らす方もいらっしゃいます。
こうした方を
自治会や敬老会など地域のお年寄りが集まっている団体と何らかの方法でつなぐことはできないか
との想いから、チャレンジしたとのこと。
東海林さんは、住まいのある神奈川県秦野市で150人の高齢者のヒアリングした結果、以下のニーズがあることに気づきました。
①自治会の交流イベントをしっかりと知らせる方法が欲しい
②自治会専用のものが欲しい
①はこれまで回覧板がその役を担ってきましたが、やはり回ってくるまでに時間がかかる…
場合によってはイベントが終わっている場合もあるとのこと…
一方、SNSならばリアルタイムで情報が分かり、イベント当日「雨が降ったから中止」というニュースも、すぐに知ることができます。
「いちのいち」では、
①自治会からのお知らせを表示する電子回覧板的な役割の「ホーム」
②自治会・町内会内の役員会や子ども会といった個別のグループで情報発信・共有できる「コミュニティ」
③自分のプロフィールなどを登録して地域住民との交流につなげる「マイページ」
④災害情報
などの情報共有ができます。
その後、沿線以外の自治体からも注目され、今年5月には総務省の「自治会等における地域活動のデジタル化実証事業」に採用。
北海道から沖縄県まで全国9道府県の10市町村で利用が始まり、これらとは別に各地の自治会から利用の申し込みもあるそうで、現在は全国約600自治会、ユーザー数は数万人まで増えたそうです。
「電鉄なのにSNS開発」「高齢の方のデジタル交流」という、普通では発想しないような柔軟なアイデアに非常に刺激を受けました〜
ということで、本日は電鉄会社が取り組む地域共生のカタチをご紹介させていただきました。
ここで学べる知見は、さまざまな業界・企業でも転用できそうですね😊