“売らないお店”の進行形
column vol.1319
11月25日に小売業協会・生活者委員会 第13次 第8回定例ミーティングにて、第13次の総括をするのですが、只今、絶賛発表資料を作成しております。
「2050年の小売業のあるべき姿」というテーマで約2年間にわたって議論してきましたが、30年後の世界の輪郭が見えてきました😊
その一端を少しお話ししますと、OMO(オンラインとオフラインの融合)が、さまざまなテクノロジーの進化によって、今までになかった顧客体験と商習慣に変わる。
実際に完成して、言える時期になったら、また詳しくお話ししますが、今日はOMOのはしりである「売らないお店」について語りたいと思っています。
実際、この形態は一時期の盛り下がりを乗り越え、定着してきているのです。
OMOの広がる期待
ちなみに「売らないお店」とは、実店舗で商品を見たり、試着した後に、ネットで購入する形態のこと。
コロナ禍で一旦盛り上がりを見せましたが、収益モデルに課題があり、少しブームが下火に…
一方で、成果を出している小売店の代表格の1つが大丸東京店でしょう。
2021年にD2Cブランドのショールーミングスペース「明日見世(あすみせ)」がオープンしましたが、今年の9月に4階から9階に移り、増床リニューアルオープンしました。
〈WWD JAPAN / 2024年9月17日〉
3年前から、ファッションやビューティ、雑貨などジャンルレスに小規模ブランドをキュレーションして見本を展示し、大丸松坂屋側はD2Cブランドから出展料を徴収するカタチで運営してきました。
D2Cブランドは優れた商品を持っているブランドが多いのですが
といった理由でリアル出店ができないという課題がありました。
そこで、明日見世に商品展示というカタチで出展することで、新しい顧客とのタッチポイントを生み出してきたわけです。
しかも、単にリアル店で商品をお披露目できるだけではなく、売り場に設置されているAI顔認証カメラによって、「顧客属性の把握」「商品への反応分析」といった顧客分析までしてくれる。
お客さんに知ってもらう場でもあり、お客さんを知る場にもなっているのです。
ちなみに、大丸はこの3年間の運営期間で200以上のブランドからの出展実績を重ね、取引先と顧客からの一定の好反応を得たと評価し、移設増床を決めたとのこと。
出展料を従来の12週間あたり45万円から90万円へ引き上げ、出展料収入の計画を移設前の2.5倍にするなど、強気の姿勢から、その自信が窺えます。
パーソナル体験で心を掴む
ショッピングセンターでも成功事例が見られてきており、その1つがららぽーとです。
同店では、ショールーミングストアである「ららぽーとクローゼット」を3店舗展開。
好評により、今後10店舗展開を予定しています。
〈東洋経済オンライン / 2024年10月16日〉
ららぽーとクローゼットは、ららぽーとの人気ショップを中心に取り扱う公式通販サイト「&mall(アンドモール)」に出品されているファッションアイテムを集めたショールーミングの店舗。
&mallの商品を事前にWebで試着予約をしておき、当日訪れて試着ができるサービスとして開始しました。
画期的なのは、1つのショップの商品だけでなく、複数店舗の商品をまとめて試着できる点。
そして、ららぽーとは育児世代のお客さんが多いですが、ベビーカーも一緒に入れる広々とした試着室だったり、キッズスペースやカフェスペースも設けて家族が楽しく過ごせるように造られています。
そして、購入は&mall(ネット)なので、当然 “手ぶら” で帰れる。
この利便性がウケているわけです。
ただ、最初からお客さんの心を掴んでいたわけではありません。
集客を促すために体験サービスを大幅に強化しています。
それが、こちらです。
自分の体形に合った服や色をAIやプロによって客観的に診断してもらう「体験」で人気店へと上り詰めたのです。
〜というように、OMOは着実に市民権を得てきている。
それが今後、テクノロジーの進化によって、さらに主役になっていくのだと思います。
リアルの真価が問われる時
D2Cブランドが実店舗をタッチポイントとして重視するように、「リアル」であることの価値ということに、よりフォーカスしていかないといけません。
例えば、推し活のライブを映像で観ることもできますが、やはり生で観たいというのは「リアル」に価値があるからです。
ですから、30年後の小売店は恐らく、今のようなモノが並んでいる単なる「買い場」ではなくなっているというのは間違いないでしょう。
何か感動や楽しみを体験する場の中に、商品との出会いも用意されている。
「小売」という言葉が死語になっている未来を想像できる企業が生き残り、進化していくでしょう。
〜ということで、最後に小さな感動をお届けさせていただきます。
最近、「売らないペットショップ」が話題になっているのです。
〈TBS NEWS DIG / 2024年11月8日〉
そのお店とは、さいたま市・浦和区にある「ペットフェリーチェ」。
一見普通のペットショップですが、“売らない店”というのは、どういうことなのでしょうか?
実は、こちらのお店にいるワンちゃん、ネコちゃんは、ブリーダーさんのもとにいた子や、飼い主の都合で飼えなくなった子。
新たな里親との出会いの場になっているのです。
…でも、こちらのお店の収益が気になりますよね…?
もちろん、そこは考えられていて
など、飼った後のサービスで収益を得ています。
こうしてペットの命を守る活動を成り立たせている。
フランスでは、今年からペットショップでのワンちゃん・ネコちゃんの販売が全面的に禁止されましたし、アメリカでもカリフォルニア州が2019年から禁止、ニューヨーク州も今年からショップでの販売を原則禁止しています。
日本でも動物愛護法が改正(2021年施行)されましたので、今後はペットとの出会いが急速に変化していくと思います。
今回の事例はリアルの場を、命をつなぐ場として残していく未来が見られました。
翻って小売業が残したいリアルとは何なのか?
ここに業界全体として立ち向かっていく、そんな総括を25日に各社のメンバーに伝えていけるような話にしたいと思います😊
その内容は、いつかまた話せる時が来ましたら。
本日も最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました!