77歳でSexするには結婚しよう -1
Those were the Days. 4回のその1
女が簡単に男に惚れてしまうって、男は知らない。
唐変木というか朴念仁なのか分からないけど、共感力とか感能力とか色々足りないバカ男ばかりだ。
その日は本当に疲れてしまって、単に気疲れなのか、生活疲れなのか、独り身の女には疲れるタネはいくらでもあるから体力疲れくらいで寝れば収まってくれるなら良いけど。
それで入り口フルオープンの会社近くの居酒屋によろけて入ってしまった。
こんな近場の居酒屋によるなんてなかったけど、この時間帯なら誰にも会わないだろう。
外の光で明るい店内は、暗めの場所を求めた気持ちと合わないけど、とりあえず座れればいい身としてはあれこれ言っても詮方ない。
静かさに安堵していると、なにやら開店前というか客が入る前の緊張がどこかにあるようで仕事モードに見構えている酒場はやはり場違いで落ち着きを失わせる。
忙しく立ち働くさまを見ていたら急に注文した品が来て、驚き、並べられた料理に目を落としていたら、
「おや、珍しいね、どうしたの」
会社の人に話しかけられ、また驚いた。でも珍しいねではなく初めてだねのはずだけど、奇異な動物と云う意味の珍しいなのかな。
「ええ、ちょっと疲れてしまって、ちょっと休まないと歩けない感じで」
うわー、あとあと落ち込みそうな返しだ。
「そりゃいけないね、何が有ったの」
「いえ、何もないんですけど」
「あッそッ、そりゃ、パーソナルマターなのかな」
「まあそんなところです」
会社の悩みではないからご安心ください。前にでんと座りおしぼりをしつこく使いながら、話を聞いてやろうじゃないかモードだ。
「もう何年になるの、つい最近でしょ」
「5年です」
「そんなに。じゃきっとマンネリだよ」
はいその通りです。秋じゃないけど秋深まるマンネリでございます。面接だってするのに、人に向き合わないおざなり会話だ。
「そんな時はパーと飲んで羽目を外して忘れないとね」
奢ると言外込めて言う、どうしようかな、面倒くさいし。
「まあ少し飲めば気も晴れてくるよ」
ちょっと倒れる込む感じで寄った疲れが見えたのかな、でも、ビールの冷たさに心奪われていたから、ジョッキを持ち上げて進められれば上唇を泡にまみれさせてやろうという気になってくる。
「いま仕事はなに? 楽しい?」
楽しいわけないじゃないか。こう聞くのは仕事が楽しいかでは無く、人間関係に問題ないか聞いている、くらいは分かる。
「机と窓枠の拭き掃除ですよ」
目がちょっと大きくなり、ジロッとされた。
「窓際ってごちゃごちゃしてすごくよごれるんですよ、だから私の独壇場ですよ、癒しの時間ですよ」
「癒しねえ」
目は戻って、力を抜いて伸びをした。
「ええ、ルーチンワークですし点数稼ぎですよ」
査定にでもどうぞ、挑戦的というよりからかい気分で軽く口にしたけど、私なんかを査定するなんて鼻からある筈もなくリラックスは深まるようだ。
でも男の人と話すは楽しい。撫でられている感覚になる。
「趣味なんかなんだろう、多趣味なほう?」
「そんなにないですけど、バレー鑑賞なんかしますよ」
「へー、お金かかりそうだね」
「大丈夫ですよ、推しが居るわけじゃないし」
「ああ、そうか。バレーの追っかけなんかきっといくらあっても足りないね」
「年に数度だから些細な贅沢です」
「なるほど、一度行ってみようかな」
「ええ、セックスだって何十年もやってきたわよって云うプリマドンナが、色っぽい腰で白鳥の湖なんか踊っていたりするから面白いと思いますよ」
からかい気分だけどちょっと性的だと反省した。
「なるほど、それで元気をもらっているんだ」
なにこの返しは、揶揄い返しか、気の毒扱いか、結構失礼だ、そんなに淋しい女ではない。
「あの男のもっこりはどうも苦手だね、キツイ運動しているんだから縮こまってしかるべく納まっているだろうから要らんと思うけどなあ」
「きっと大きい人が居たんですよ」
お返ししてやったけど、ハハハ、と笑った。そして、今日は付き合ってもらうよ、と言った。まあ、良いけど。
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