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『良寛 野の花の歌』 解説 本間明 水彩画 外山康雄
ひとり遅れの読書みち 第47号
新潟県南魚沼市の「外山康雄 野の花館」に先日、立ち寄った。山あいの一角に建つ古民家を改造した小さなギャラリーだ。外山康雄の描いた野の花の水彩画が、モデルとなった花々とともに展示されている。天井は高く、静かで落ち着いた雰囲気。水彩画は淡い色合いで、清らかな香りが漂って来るようだ。絵に写された実物の花木がその前に置かれ、ギャラリー内を鑑賞して回ると、まるで山野を歩いているかのような気持ちになる。
そこで良寛の和歌を収めた本書を見つけた。新潟の生んだ江戸後期の僧侶で歌人の良寛。以前からその書や歌の魅力に引かれ、またその清楚な生き方に感銘を受けていた。自然と手が伸びた。解説する本間明は、新潟県の人で良寛研究者。全国良寛会の理事を務める。
良寛は生涯で1400首以上の和歌を詠み、その中に花の歌は350首ほどあるという。その中から137首の和歌(短歌と旋頭歌)を選んでいる。歌は赤紫色、そのわきに添えられた現代語訳と解説とは色を変えて小ぶりの活字。歌がすぐに目に入るよう工夫されている。
春、夏、秋と季節ごとに、例えば、春は若菜、芹、なずなから始まり、梅、かたくり、桃、すみれ、岩つつじなど。夏には、山梨、卯の花、藤、忘れ草など。秋には、ざくろ、なでしこ、おみなえし、紅葉などを、外山の水彩画を添えて取り上げている。桜や梅の歌も鮮やかだが、好みによるものの、すみれや萩が印象的だ。可憐な花を愛でている様子がうかがえる。
飯乞ふと わが来しかども 春の野に
すみれ摘みつつ 時を経にけり
(托鉢に出かけてやって来たが、春の野原ですみれを摘んでいるうちに、いつのまにか時間が経ってしまった)
子どもらよ いざ出ていなむ 弥彦の 岡のすみれの 花にほひ見に
(子どもたちよ さあ出かけよう。弥彦の岡に咲いているすみれの花の香しい色つやを見に)
秋萩の花咲く頃は 来て見ませ
命全くば ともにかざさむ
(秋の萩の花が咲く頃にまた来て下さい。わたしがまだ元気でしたら、萩の花を一緒に頭に飾りましょう)
わが宿を訪ねて来ませ あしびきの
山のもみじを 手折りがてらに
(わたしの庵を訪ねて下さい。国上山のもみじ葉を手で折り取り来たついでに)
年老いて病で弱りながら、友との交わりを痛切に望む気持ちを素直に表している。
良寛の辞世の歌と伝えられている次の歌は、自然を愛し友とする生き方をよく表しているだろう。
形見とて 何残すらむ 春は花
夏ほととぎす 秋はもみじ葉
(形見として何を残しましょうか。春桜、夏のほととぎす、秋の紅葉がわたしの形見です)
本文134ページと小さな歌集だが、美しい画とともに清らかな歌があふれる。大切な宝物を手に入れた思いだ。