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『マッドマックス 怒りのデス・ロード』:2015、オーストラリア&アメリカ

 近未来の地球は核兵器による戦争で荒廃し、石油も水も不足する状態が続いていた。かつて「ロード・ウォリアー」と呼ばれた元警官のマックス・ロカタンスキーは、インターセプターで荒野を移動していた。武装集団の襲撃を受けたマックスは逃走を図るが、あえなく捕まった。
 洞窟へ連行されたマックスは焼印を押されそうになり、必死に抵抗して逃げ出した。しかし全身白塗りのウォー・ボーイズに追い掛けられ、すぐに捕まって連れ戻された。

 焼き印を押されたマックスは、武装集団の砦であるシタデルへ連行された。武装集団の首領を務めるイモータン・ジョーは自らを救世主と称し、大勢の人々に崇拝される存在だった。彼は集まった群衆に水を分け与え、ガソリンや弾薬を入手するために大隊長のフュリオサが率いる部隊を派遣する。
 マックスは檻に入れられ、ウォー・ボーイズを延命させる輸血用の人間として使われる。フュリオサは急にウォー・リグの進路を変更し、護衛のモロゾフたちに「東へ向かう」と告げる。

 ジョーの息子であるリクタス・エレクタスとコーパス・コロッサスは、その様子を目撃する。情報を知らされたジョーは、繁殖用の女である「ワイブス」の部屋へ駆け込んだ。
 するとワイブスのトースト、スプレンディド、ケイパブル、ザ・ダグ、フラジールは姿を消しており、部屋には決別を示すメッセージが残されていた。部屋の奥にいた老女のミス・ギディーは、ジョーに「彼女たちはアンタの物じゃない」と言い放った。

 ジョーは即座に捜索を決定し、ウォー・ボーイズのスリットたちが準備に取り掛かる。寿命の近いニュークスは、自分に運転させてくれとスリットに頼む。スリットは「お前には無理だ」と反対するが、ニュークスは輸血袋のマックスを連れて行くことを告げて運転係を承諾させた。
 ニュークスはマックスを車の先端に括り付け、仲間のドーフ・ウォーリアーやジ・エースたちと共に出発する。フュリオサはシタデルからジョーたちが出発したことを知った直後、盗賊団のバザードに襲撃された。

 フュリオサの部隊が戦っていると、ニュークスたちが追い付いた。フュリオサは巨大な砂嵐に突っ込み、追っ手を振り切ろうと目論んだ。ニュークスは後を追い、車を激突させて大破した。
 砂嵐が過ぎ去った後、マックスはニュークスと繋がれている手錠を外そうとする。だが、鍵が無くて外れなかったので、ニュークスを背負ってウォー・リグに歩み寄る。彼はフュリオサとワイブスたちを弾丸の入ってない銃で脅し、水を奪い取った。

 マックスは鎖を切断させようとするが、フュリオサに襲われる。フュリオサは車の下に隠してあった拳銃を掴もうとして、マックスと揉み合いになる。マックスはフュリオサを取り押さえ、威嚇発砲で静かにさせた。ニュークスは大喜びし、マックスの鎖を切断した。
 マックスはウォー・リグを奪い、その場から逃走しようとする。だが、すぐにエンジンが停止し、追い付いたフュリオサは仕掛けがあることをマックスに告げる。フュリオサが自分と女たちを同乗させるよう要求すると、マックスは承諾した。

 ウォー・リグが走り出すと、ニュークスは後部に飛び乗る。フュリオサが運転していると、マックスは拳銃を構えて威嚇した。フュリオサは緑の地へ向かおうとするが、ガスタウンを統治する人食い男爵の軍団を目撃する。
 ワイブスたちはニュークスに気付き、ウォー・リグから突き落とした。渓谷に近付くと、フュリオサは「ここの連中と話は付けてある」とマックスに告げる。彼女はワイブスたちを隠れさせ、マックスに「私1人じゃないとマズい」と言う。

 マックスも身を隠した後、フュリオサはウォー・リグを停めて車を降りた。彼女は渓谷で暮らすイワオニ族に「ガソリンを持って来た」と叫び、道を塞いで追っ手を妨害するよう頼んだ。しかし追っ手の多さにイワオニ族の首領は文句を付け、交渉は決裂に終わる。
 マックスはウォー・リグのエンジンを掛け、フュリオサは飛び乗った。ニュークスは谷に到着したジョーの部隊と合流し、車に乗せてもらう。産気付いたスプレンディドたちを乗せたウォー・リグは、イワオニ族の攻撃を受けた。

 軍団を率いたジョーはウォー・リグに追い付き、「スプレンディドを出せ。俺の子だ」と叫ぶ。ニュークスは「俺なら運転席に乗り込める。フュリオサを殺せる」とジョーに告げ、拳銃を渡される。
 ニュークスはリクタスの協力でウォー・リグの屋根に飛び乗り、ジョーは車を前に出す。ウォー・リグは岩とぶつかってバランスを崩し、スプレンディドが振り落とされた。ジョーは彼女を避けようとしてハンドルを切り、車は激しく横転した。

 ワイブスたちは戻ってスプレンディドを助けるべきだと主張するが、マックスは「彼女は車にひかれて死んだ」と冷徹に言う。フュリオサは彼の証言を受け入れ、先へ進むことを了承した。見張りに立ったケイパブルは、隠れているニュークスを発見する。
 ニュークスが「英雄になれたはずなのに」と自身の失態を嘆くと、ケイパブルは彼を慰めた。夜になり、マックスは地雷を使ってジョーたちの行く手を妨害する。ジョーは生体整備士のオーガニック・メカニックに命じ、死んだスプレンディドの腹から男児を取り出させた。

 ウォー・リグが立ち往生していると、武器将軍の車が迫って来た。ニュークスが協力を申し出て運転席に座り、何とかウォー・リグは動き出した。マックスたちはフュリオサたちを離れた場所で待機させ、武器将軍を始末して戻った。フュリオサはウォー・リグを運転しながら、緑の地で産まれたこと、子供の頃に誘拐されたこと、何度も脱走を図ったことをマックスに語る。
 ようやく故郷の住民たちと出会ったフュリオサだが、緑の地が砂漠に変貌していることを知ってて絶望感に打ちひしがれる。彼女はワイブスたちと先へ進もうと考えるが、マックスは水も食糧も豊富にあるシタデルを奪おうと提案する…。

 監督はジョージ・ミラー、脚本はジョージ・ミラー&ブレンダン・マッカーシー&ニコ・ラソウリス、製作はダグ・ミッチェル&ジョージ・ミラー&PJ・ヴォーテン、製作総指揮はイアイン・スミス&クリス・デファリア&コートネイ・ヴァレンティー&グレアム・バーク&ブルース・バーマン&スティーヴン・ムニューチン、撮影はジョン・シール、美術はコリン・ギブソン、編集はマーガレット・シクセル、衣装はジェニー・ビーヴァン、視覚効果監修はアンドリュー・ジャクソン、音楽はTトム・ホーケンバーグ(ジャンキー・XL)。

 出演はトム・ハーディー、シャーリーズ・セロン、ニコラス・ホルト、ヒュー・キース=バーン、ジョシュ・ヘルマン、ネイサン・ジョーンズ、ゾーイ・クラヴィッツ、ロージー・ハンティントン=ホワイトリー、ライリー・キーオ、アビー・リー、コートニー・イートン、ジョン・ハワード、リチャード・カーター、iOTA、アンガス・サンプソン、ジェニファー・ヘイガン、メーガン・ゲイル、メリッサ・ジャファー、メリタ・ユリシッチ、ジリアン・ジョーンズ、ジョイ・スミザース、アントワネット・ケラーマン、クリスティーナ・コッチ他。

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 『マッドマックス』シリーズの30年ぶりとなる第4作。監督は前3作に引き続いてジョージ・ミラーが担当。ジョージ・ミラーは本作品が初の映画となるブレンダン・マッカーシー&ニコ・ラソウリスと共に、脚本も手掛けている。
 前3作で主演だったメル・ギブソンも含めてキャストは総入れ替えになっており、リブート作品と言ってもいい状態だ。ただし『マッドマックス』でトーカッターを演じていたヒュー・キース=バーンだけは、ジョー役で出演している。

 主人公は今までの3作と同じ「マックス・ロカタンスキー」であり、キャラ設定は踏襲されているが、演者はトム・ハーディーに交代。フュリオサをシャーリーズ・セロン、ニュークスをニコラス・ホルト、スリットをジョシュ・ヘルマン、リクタスをネイサン・ジョーンズ、トーストをゾーイ・クラヴィッツ、スプレンディドをロージー・ハンティントン=ホワイトリー、ケイパブルをライリー・キーオ、ダグをアビー・リー、フラジールをコートニー・イートンが演じている。
 ジョージ・ミラーの要請を受け、アニメーターの前田真宏がコンセプト・アートのデザイナーとして参加している。

 メル・ギブソンが降板したので、リブートするのかと思っていたのだが、どうやら「今までの3作を経ての物語」という風に繋がっているようだ。でも、こっちからすると「マックスはメル・ギブソン」という印象があるので、トム・ハーディーに交代するならリブートしてくれた方が有り難いかなあと。
 それと、今回のマックスは「かつて眼前で死んだ人間のフラッシュバックに苦しんでいる」という設定が用意されているんだけど、その「過去」ってのが前3作のことかと思ったら、そうじゃないのよね。

 どうやらマックスの心に大きな傷を残しているのは、「グローリー・ザ・チャイルドの死」という出来事だ。マックスは劇中で何度も子供の幻聴を耳にしたり、少女の幻覚を目にしたりするのだが、それは全て「ある女性から娘のグローリーを救出するよう依頼され、盗賊のアジトへ乗り込んで云々」という出来事に関係しているのだ。
 でも、マックスが形見のブレスレットまで持っているグローリー・ザ・チャイルドってのは、前日譚を描いたコミックの登場人物なのだ。そんなトコとリンクされても困るよ。コミックを読んでいない人も、少なくないはずで。そういう人からすると、幻聴の声が何者なのかサッパリ分からないまま映画を見る羽目になるのよ。

 それだけでなく、他の登場キャラクターに関しても、実は相当に分かりにくい状態となっている。例えばウォー・ボーイズには「全員がジョーの養子」という設定があり、だからニュークスは息子としてジョーに認めてもらおうとする。また「環境汚染のせいで寿命が短い」という設定もあり、だから常に輸血が必要なのだ。
 でも映画を見ただけだと、そういう設定は分かりにくい。他の面々にしても、搾乳器を使っている女たちは「シタデルの取引物資である母乳を提供するミルキング・マザー」という設定だけど、映画を見ているだけだと良く分からない。

 キャラクターの名前も、分からない面々が少なくない。粗筋では「人食い男爵」「武器将軍」「オーガニック・メカニック」なとど記述したが、劇中では一度も名前を呼ばれない。
 名前が分からなくてもストーリー展開に支障は無いが、あまりにも大勢の連中が出て来るので、「こいつは誰だっけ?」となってしまう恐れがある。見た目は全く違うから、判別できないってことではないのよ。ただ、いつの間にか登場しているキャラも多いので、どういうポジションなのかはボンヤリしてしまう。

 この映画は、「アクの強いキャラクターの面々」と、「アクションに次ぐアクション」、この2つの要素だけで成立していると言ってもいい。普通に考えれば、そんなのは中身がペラッペラでポンコツな作品になるはずだ。っていうか実際、ドラマとしてはスッカスカである。
 でも、たぶん見終わった時に満足感を抱く人は多いんじゃないだろうか。ようするに、これは「オツムを空っぽにして観賞するタイプの映画」として、とても良く出来ているってことなのだ。

 最近は何かに付けてVFXを使いまくるアクション映画が多い中、この作品は全てのアクションを「本物の迫力」にこだわって作っている。大勢のスタントマンが、その技術と度胸で危険なカーアクションをこなしている。
 低予算のB級映画だったシリーズ1作目や2作目ならともかく、今回は充分な予算を確保できている製作体制なので、その気になればVFXで飾ることも出来ただろう。ジョージ・ミラー監督がCGを嫌っているとか、苦手というわけではない。過去に彼は、『ベイブ』や『ベイブ 都会へ行く』を手掛けているしね。でも、この作品では「本物のスタント」にこだわった。それは大正解だったと言えよう。

 ザックリ言っちゃうと、「車に乗った連中が荒野を突っ走り、殺し合う」という様子が延々と描かれる映画である。フュリオサが進路を変更し、ジョーの軍団が出撃してからは、ホントにそういう内容で大半が構成されているのだ。
 ある意味では、「すんげえバカな映画」である。ここでの「バカ」は扱き下ろすための表現ではなく、褒め言葉である。中途半端なバカはカッコ悪いだけだが、ここまで突き抜けてくれれば、能天気に楽しめるんじゃないだろうか。

 溢れ出す勢いとパワー、キチガイじみた熱気と迫力が、強引にグイグイと引っ張っていく。荒野を突っ走る車の上でエレキギターをかき鳴らしているドーフ・ウォーリアーとか、興奮すると口に銀色のスプレーを噴き付けるニュークスとか、「なんじゃ、そりゃ」と言いたくなるような連中ばかりだ。
 しかし、この映画のテイストには合っている。バカまっしぐらだ。ぶっちゃけ、4作目と言うよりも「2作目のリメイクじゃないのか」と思ったりもするが、まあいいんじゃないかと。

 真面目に観賞するとツッコミ所は山ほど出て来るが、「ちっちゃいことは気にしない」とワカチコな心構えで鑑賞すべき映画だ。この映画をマジに捉えてマジに批判するのは、プロレスを見て「八百長だ」と批判するのと似たようなモンだろう。
 言い方が正しいかどうかは分からんが、「割り切って」観賞することをオススメする。「なんか良く分からんけど、すげえ映像だ」とか、「イカれた奴らが、派手に暴れてるなあ」とか、そういうバカっぽい感想しか浮かばなくてもOKよ。そういう映画だから。

 ただ、あえて欠点を指摘すると、「大勢のキャラクターが登場するが、総じて中身は薄っぺらい」ってことは否めない。人物としての厚みや奥行きは無く、ほぼ奇抜な見た目のインパクトだけで勝負しているような状態だ。
 初期設定だけで終わっているとか、そういうレベルではない。もはや、その初期設定さえ、ほとんど説明されていない奴らが大半だ。なので、ニュークスが寝返る展開も、それに見合うだけのドラマは用意されておらず、「すんげえ雑に処理しちゃってんのな」と感じる。

 あと、「主人公が脇役に食われている」ってのも厳しくないか。何しろマックスは登場した直後、すぐに捕まっているのだ。車とバイクの連中が襲って来て、マックスがインターセプターを走らせるので、そこからカーチェイスが繰り広げられるのかと思いきや、あっという間に捕まっちゃうのよ。
 普通に考えれば、冒頭シーンは主人公の強さやカッコ良さをアピールするトコでしょ。それなのに、まだ顔も良く分からない状態で、いきなりヘタレなトコを見せるのだ。

 しかも、マックスが洞窟から逃走を図るので、そのまま無事に脱出できるのかと思ったら、また簡単に捕まってしまう。登場してから、ずっと情けないままなのだ。
 あと、そこでインターセプターを少し見せた後、最後まで全く使われていないのも、どうなのかと。それと、砂嵐に乗じて脱出してからのマックスは、ヘタレっぷりこそ消えるものの、そんなに活躍している印象も無いんだよね。

 マックスは武器将軍を単独で倒しに行ったり、最終決戦でも果敢に戦ったりしている。だけど、見た目も含め、キャラとして地味なのよね。また、ラスボスとして配置されているジョーも、これまた悪党としての存在感が今一つ。だから、こいつを倒してもカタルシスが弱い。主人公もラスボスもイマイチなので、フュリオサがいなかったら、かなりツラいことになっていたんじゃないかと。
 この映画って、実質的にはフュリオサが主人公だよね。彼女が圧倒的な存在感で牽引している形だよね。まあ、そのフュリオサが素晴らしく魅力的なので、この映画に関しては「それはそれで別にいいか」という気持ちになるんだけどね。

(観賞日:2017年2月14日)

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