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『ジャイアンツ』:1956、アメリカ

 テキサス州に広大なレアータ牧場を所有するビック・ベネディクトは名馬を購入するため、ヴァージニア州のホレス・リントンを訪ねた。目当ての馬は、ホレスの次女であるレズリーの所有だった。
 レズリーを見たビックは恋心を抱くが、彼女は英国大使のデヴィッド卿と結婚することが決まっていた。しかしレズリーもビックと話し、好意を抱いた。彼女の気持ちを知った妹のレイシーは、「デヴィッドと別れるなら私に頂戴」と告げた。レズリーはデヴィッドと別れ、ビックと結婚することを決めた。

 ビックとレズリーは列車に乗り、ベネディクト駅に到着した。列車を降りると使用人のアンヘル・オブレゴンが迎えに来ており、レズリーに祝福の花を差し出した。牧場は59万5千エーカーと広大で、ピックの家までは車で80キロもあった。
 ビックは両親を亡くし、牧場の一切を仕切る姉のラズと2人で暮らしていた。牧童のジェット・リンクを目にしたビックは、解雇したはずなので驚いた。ジェットは生意気な態度を取り、「出て行くはずだったが、マダムに引き留められた」と告げた。ラズはレズリーに、2人が犬猿の仲だと教えた。

 レズリーが牛の駆り集めを手伝おうとすると、ラズは「暑いから貴方には無理だわ。東部人は貧弱だから。私は落馬以外で寝込んだことがない」と言う。ラズは近所の人々を集め、レズリーに紹介した。
 レズリーはベイルとエイドレンのクリンチ夫妻やホワイトサイド判事らと会い、ビックは隣人のヴァシタイ・ヘイクと友人のピンキー・スナイスを紹介した。会食の席で、ヴァシタイとピンキーは結婚したことを発表した。子牛の頭が料理として出ると、レズリーは卒倒した。それを見たラズは、「やっぱりね」と冷淡に呟いた。

 レズリーは家事や仕事を全く手伝わせようとしないラズに、「ハッキリさせておくわ。貴方の領域を侵さないから、私の邪魔もしないで。私は客じゃないのよ」と告げた。彼女はビックと共に、牛を見に行く。ビックは牧童頭のポロを紹介し、牛の駆り集めを始めた。彼はジェットに、レズリーを車で家まで送るよう指示した。
 レズリーはジェットに「何故ここに?みんな出て行きたがる。いつか俺も出る」と言われ、「夫の土地だから」と答える。ジェットが「メキシコ人から奪った土地だ」と告げると、「ベネディクト家が購入した土地よ」とレズリーは修正した。

 ジェットはレズリーに好意を寄せ、「アンタみたいな美人は見たことが無い」と褒めた。レズリーが「夫にも伝えておくわ」と言うと、彼は困惑した様子で「それはマズい」と口にした。ラズはポロから「気性が荒い」と止められたのも聞かず、レズリーの馬で出掛けた。ポロの不安は的中し、ラズは落馬した。
 ジェットはレズリーを車に乗せ、メキシコ人の暮らす貧しい村に立ち寄って「ここもベネディクトの土地だ」と告げた。レズリーはアンヘルの家族が病気だと知り、家に入った。アンヘルの妻と会った彼女は、赤ん坊が高熱を出していると聞かされた。ジェットはレズリーに、「早く帰りましょう。ビックが怒る」と告げた。

 家に戻ったレズリーは、ラズが落馬して重傷を負ったことをビックから聞かされる。ボーンホルム医師が到着する前に、ラズは死去した。自分が馬を買ったせいだと罪悪感を吐露するビックに、レズリーは「誰のせいでもない。事故よ」と声を掛けた。彼女はボーンホルムに、アンヘルの赤ん坊が高熱なので助けてほしいと要請した。
 彼女が同行しようとすると、ビックが「バカなことはよせ。医者は要らない。連中には連中のやり方がある」と反対する。レズリーは「貴方は何も分かっていない。赤ん坊が病気なの」とビックを説き伏せ、村へ行く。村から戻った彼女は、赤ん坊が助かったことをビックに報告した。

 ラズの葬儀に参列したビックはホワイトサイドとベイルに呼ばれ、ラズが遺言書でジェットに小さな土地を残していたことを知らされる。ビックは彼らから、「500ドルか600ドルはする。地価の2倍の金を渡して事を収めたらどうだ」と提案された。
 ビックはジェットを呼び、1200ドルと引き換えに土地を放棄するよう持ち掛けた。しかしジェットは「マダムのくれた物に賭けてみたい。土地を貰うよ」と言い、交渉に応じなかった。葬儀の参列した面々の間では、所有地から石油が湧いたという話が出ていた。

 ビックが叔父のバウリーやホワイトサイドたちと選挙について話し始めた時、レズリーも参加しようとする。しかしビックは「男の話だ」と席を外すよう求め、ホワイトヘッドは「可愛い頭を政治に使わない方がいい」と軽く笑った。女性を馬鹿にする態度に憤慨したレズリーは、「貴方たちは10万年遅れてるわ」と批判した。
 寝室に戻ったレズリーは、ビックから「僕らに説教するつもりか。他の奥さんと同じようにしろ」と怒鳴られる。レズリーは受け入れず、「嫌よ。私は結婚した時から、こういう女よ」と反発する。しばらく腹を立てていたビックだが、結局は「そうだな」と落ち着いた。

 やがてレズリーとビックには、双子のジョーディーとジュディーが誕生した。レズリーは若いグエラ医師の手助けを引き受け、メキシコ人の村に通った。レズリーは村長のゴメスに、グエラを紹介した。レズリーがジェットの元に立ち寄ると、彼は土地に「リトル・レアータ」と名付けて家を建てていた。
 彼女が「なぜ村の人々は独立しないの?」と質問すると、ジェットは「メキシコ野郎と一緒にするなよ。俺はビックと同じテキサス人だ」と言う。「差別意識はビックと似てるわね。でも貴方の身分は労働者」とレズリーが告げると、彼は「のし上がってみせる」と強い野心を見せた。

 帰宅したレズリーは、「ゴメスの村は酷い。地主なら手を貸すべき」とビックに告げる。ビックは「関係ない。二度と村に近付くな」と声を荒らげ、レズリーがジェットと会っていたことにも腹を立てて「奴を追い出してやる」と言い放った。やがてレズリーは娘のラズ二世を出産し、ジョーディーとジュディーは4歳の誕生日を迎えた。
 ビックはジョーディーに跡を継がせると宣言し、ポニーに乗せた。アンヘル二世が喜んで自分から馬に乗るのとは対照的に、ジョーディーは泣いて嫌がった。レズリーはバウリーから、「ビックは子供の育て方が分かってない。君のやり方で育てて、子供の望む道に進ませろ」と助言された。

 レズリーはビックに、「子供たちを連れて実家を訪ねたい。しばらく離れて、お互いを見つめ直すべきだと思うの」と告げた。ビックは疲れた様子で、「僕には分からない。任せるよ」と返した。レズリーは子供たちを連れて帰郷し、久々に両親や妹と再会した。
 レイシーとデヴィッドの結婚式には、ビックもレズリーに知らせずやって来た。ビックが「戻って来てくれるかい?」と問い掛けると、レズリーは「農場を出た時と、私は変わってないわ」と告げた。

 ジェットは借金を重ねて土地を掘削し、ついに石油が湧き出した。彼はビックの元へ乗り込み、「俺はアンタより遥かに金持ちだ」と勝ち誇った。彼がレズリーに「食べたいぐらい美人だ」と言い寄ると、ビックはパンチを浴びせた。ジェットはビックを殴り倒し、その場を後にした。
 やがて時が過ぎ、ジェットは石油会社を設立して土地を広げていく。成長したジョーディーは、レズリーに「コロンビア大学へ行って医者になりたい。僕に牛追いは向いていない」と話す。一方、ボブと交際しているジュディーは、牧場主になりたい考えをビックに打ち明けていた。

 レズリーはジュディーをスイスの女子大へ通わせたいと考えており、彼女がテキサス大の畜産科で学びたいと希望していることをビックから聞いて反対する。ビックが「無理強いするな。あの子は決意を固めてる」と諭すと、レズリーはジョーディーの希望を伝える。
 ビックは「死んでも許すもんか」と反対し、「どこの大学へ行こうと、いずれ牧場主になる」と告げる。レズリーは冷静になり、「私たち、古い世代なのよ」と口にした…。

 監督はジョージ・スティーヴンス、原作はエドナ・ファーバー、脚本はフレッド・ジュイオル&アイヴァン・モファット、製作はジョージ・スティーヴンス&ヘンリー・ジンスバーグ、撮影はウィリアム・C・メラー、美術はボリス・レヴィン、編集はウィリアム・ホーンベック、音楽はディミトリ・ティオムキン。

 出演はエリザベス・テイラー、ロック・ハドソン、ジェームズ・ディーン、キャロル・ベイカー、ジェーン・ウィザース、チル・ウィルズ、マーセデス・マッケンブリッジ、デニス・ホッパー、サル・ミネオ、ロドニー・テイラー、ジュディス・イヴリン、アール・ホリマン、ロバート・ニコルズ、ポール・フィックス、アレクサンダー・スカービー、フラン・ベネット、チャールズ・ワッツ、エルザ・カーデナス、キャロリン・クレイグ、モンテ・ヘイル、シェブ・ウーリー他。

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 エドナ・ファーバーの同名ベストセラー小説を基にした作品。『陽のあたる場所』『シェーン』のジョージ・スティーヴンスが監督&製作を務めている。脚本は『ガンガ・ディン』『病院の一夜』のフレッド・ジュイオルと『あの日あのとき』『ボワニー分岐点』のアイヴァン・モファット。アカデミー賞では9部門にノミネートされたが、受賞したのは監督賞だけに留まった。
 レズリーをエリザベス・テイラー、ビックをロック・ハドソン、ジェットをジェームズ・ディーン、ラズ2世をキャロル・ベイカー、ヴァシタイをジェーン・ウィザース、バウリーをチル・ウィルズ、ラズをマーセデス・マッケンブリッジ、ジョーダンをデニス・ホッパー、アンヘル2世をサル・ミネオ、デヴィッドをロドニー・テイラーが演じている。

 序盤、レズリーの母からテキサスの話を求められたビックは、「他の州とは全く違います。我々は1つの国だと思っています」と言う。彼だけでなくテキサスの人間が、地元に対して強い誇りを持っていることが良く表れている台詞だ。
 しかも彼の言葉は大げさではなくて、実際に他の州とは全く違うのだ。それはテキサス以外の人々からすると、決して好意的に受け取れる違いではない。人種差別的な考え方が根強く残っており、それをテキサス人は当たり前だと思っている。それだけでなく、排他的な意識も強い。

 ビックと出会って興味を抱いたレズリーはテキサスについて調べ、翌朝には「テキサスはメキシコから盗んだ土地なのね」と言う。するとビックは、露骨に不快感を示す。レズリーは何の悪気も無く、「それだけテキサスに興味を持ったのです」というアピールとして発言しているのだが、とは言え無神経な言葉ではある。
 それをビックは上手く受け流したり、穏やかに否定したりす余裕が無い。それはプライドの高さもあるが、「メキシコから奪った土地」ってのは全面否定できない弱みだったりもするのだ。

 テキサスに関するレズリーの発言が原因で、彼女とビックは口論寸前になる。そのシーンでは既に、レズリーの性格が明確に表れている。「テキサスはメキシコから盗んだ土地なのね」と平気で言えるのは、思ったことを遠慮せず口に出せる性格ってことだ。
 また、自分から恋心を明確にアピールし、婚姻を破棄できる強い意志を持った女性ってことも示されている。これはテキサスに移っても変わらず、全面的にビックやベネディクト家の色に染まろうという気は全く見せない。

 レズリーはテキサスに着くと、メキシコ人の使用人に対してフランクに接する。それをビックは快く思わず、「連中を調子に乗せるな。君はもうテキサス人だ」と注意する。つまりビックにとってメキシコ人は、黒人奴隷と似たような存在ということだ。同じ人間という意識は全く無い。しかしレズリーは真っ向から反論し、「どこにいようと私は私よ。礼は尽くさなきゃ」と告げる。
 レズリーは決して自分を曲げないが、それは「身勝手を通そうとする」ってことではない。確固たる信念があって、そこは絶対に譲れないということだ。その肝になるのが、「メキシコ人や使用人でも礼を尽くし、決して差別しない」ということだ。人種差別に関するレズリーとラズの意識の差は、2人の夫婦関係における重要な鍵となっている。

 ラズはレズリーがテキサスや牧場に馴染まない女だと捉え、露骨に拒否する態度を示す。彼女が家事や仕事を手伝わせないのは気を遣っているのではなく、「家族の一員として認めない」という意志の表れだ。そこには「たった2人の家族である弟を奪った女」に対する憎しみもある。
 自身は結婚もしていないので、ビックの愛を奪った女を素直に歓迎できないのも理解できる。意地の悪い女ではあるが、寂しい人なのだ。そんなラズの陰湿なイジメに対し、レズリーは決して曲げずに真正面から堂々と意見を言う。そんな強気な態度が、ますますラズを怒らせるという悪循環が起きている。

 レズリーとラズとの因縁が終盤になって解消されるとか、ずっと反目が続くとか、ともかく2人の対立の構図を重視するのかと思いきや、あっさりと前半でラズが退場してしまう。そこの対立に主眼を置いていなかったってことなんだろう。
 ただ、それによってラズのレズリーに対する嫌悪や拒絶が残ったままになってしまうので、消化不良の印象を受ける。それと、なぜ彼女がジェットを特別扱いしたのかも全く分からないままになってしまう。

 レズリーは勝気な女性だが、常に感情的な態度で激しく意見を主張するわけではない。例えば選挙の話をする男たちを批判した後のシーンでは自分の態度を反省し、謝罪するべきだと考えている。ビックから「他の奥さんと同じようにしろ」と怒鳴られると反発するものの、その時の態度も決してヒステリックではない。自分の意志を押し通しつつも、すぐに可愛い態度でビックを丸め込んでしまう。
 小首を傾げ、微笑を浮かべて「私を愛してるでしょ?」と可愛く言われたら、そりゃ許しちゃうでしょ。こういう時は、女という武器を最大限に活用する、したたかな性格なのだ。そして「貴方は素敵な人よ」と夫を褒めることも忘れない。テキサス男のビックだが、すっかり彼女の掌の上で転がされているのだ。

 前半はビックの人種差別を主とする考え方が否定的に示され、それをレズリーが批判したり正したりする関係性が描かれる。ビックは古い価値観に囚われたテキサス人、レズリーは進歩的な考えを持つ女性として描かれる。しかしインターミッションを挟み、子供たちが年頃に成長すると、もはやレズリーの価値観も年月の経過によって古くなってしまう。
 彼女はジョーディーの進路希望を全面的に応援し、ビックに「好きな道を進ませるのが親の愛情よね。私たち、子供を愛しすぎて好きな道を邪魔してないかしら」と言う。だが一方で、ジョディーの牧場主になりたいという希望に対しては強く反対するのだ。

 レズリーは男の生き方に関して寛容な考え方を持っているが、女の生き方については「結婚して家庭に入るのが幸せ」という古い価値観に囚われている。だから大きく言えば、ビックと同じような部分があるのだ。
 とは言え、結局はレズリーもジョディーの意志を尊重するし、ボブとの結婚も祝福する。ビックにしても、「仕方なく」ということではあるが、ジョーディーが牧場を継がず医者になっても許している。2人とも、それなりに寛容さや柔軟さを持っている。実は最も厄介なのは、ジェットなのである。

 後半に入ると、ジェットの立ち位置が大きく変化する。ただし、それは性格や考え方が変貌するということではない。石油を掘り当てて成金になったことで、立場が大きく変化するということだ。彼の性格や態度は、前半から何も変わっていない。
 前半から彼は生意気で、野心に満ち溢れていた。しかし貧乏な労働者だったので、それは許容できるモノだった。それが金や地位を手に入れても同じような態度を取ることで、ただのクズ野郎に成り下がるのだ。

 ビックはジェットと取引し、牧場を売却して石油成金になる。しかしジェットは巨大企業の経営者となり、ビックが全く敵わないような億万長者になる。それを認めたくないビックは、ジェットの空港とホテルの落成式に招待され、自家用機を購入して出向く。ここでフアナが人種差別に遭い、抗議したジョーディーをジェットが侮蔑する。
 ここでビックは激怒して対決を要求するが、泥酔しているのを見て殴る価値も無いと感じる。実際、ジェットは億万長者になったものの、ちっとも羨ましくない哀れな男と化している。彼は決して手に入らない「かつてのビックのような栄光」と「愛するレズリー」を追い求め、虚しい成功を掴んだだけなのだ。

 落成式におけるビックの態度は、一見すると人種差別に対する意識が大きく変化したようにも思える。しかしジョーディーは、長男が大勢の前で恥をかかされたことへの怒りであって、人種差別の意識が解消されたわけではないことを指摘する。一応は否定するビックだが、それは事実だ。しかしホテルを去った後、メキシカンのレストランに入った彼は黒人客が店長から差別されるのを目撃し、怒りを抱いて抗議する。
 ついに彼は、本当の意味で人種差別意識から解放されたのだ。古いテキサス人としての地位や権力は失ったが、ようやく古い価値観から抜け出すための一歩を踏み出すことが出来たのだ。一方、ジェットは金や地位を手に入れたことによって、自分が嫌悪し、反発していた「以前のビック」と同じような人間になってしまったのだ。

(観賞日:2018年3月4日)

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