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『昼顔』:1967、フランス&イタリア

 セヴリーヌはピエールと馬車で森の小道を移動している最中、「君を愛してる」と言われる。セヴリーヌは「私もよ」と喜んで告げるが、「不感症が治れば完璧だ」という言葉で不機嫌になった。するとピエールは御者たちに手伝わせ、セヴリーヌを強引に馬車から降ろした。
 彼はセヴリーヌの両手をロープで縛り、木に吊るした。ピエールは御者たちに鞭でセヴリーヌの背中を打たせ、「好きにしろ」と命じた。御者の1人が愛撫を始めると、セヴリーヌは快感を覚えた。それは全て、セヴリーヌが見ている夢だった。

 セヴリーヌは医師のピエールと結婚して、幸せな日々を過ごしていた。ピエールがセックスを求めても、セヴリーヌは拒んだ。それでも優しく寛大なピエールは、決して怒ったりしなかった。
 2人は結婚記念日に旅行へ出掛け、互いの友人であるユッソンとルネに会った。ユッソンは「人生は女だけ」と言い切るプレイボーイで、セヴリーヌはあまり好感を抱いていなかった。しかしルネはユッソンの女好きを知った上で、彼と付き合っていた。

 セヴリーヌはルネとタクシーで移動中、共通の知人であるアンリエットについて「体を売ってる。週に数日、秘密クラブに出入りしてる」と教えられた。「どんな男とでも寝るなんてゾッとするわ」とルネが口にすると、セヴリーヌは「まだそんな場所がパリにあるの?」と尋ねる。するとタクシー運転手が、「もちろんです。6軒は紹介できる」と告げた。
 セヴリーヌが帰宅すると、ユッソンから花束が届いていた。セヴリーヌはテーブルから退かそうとして、誤って落としてしまった。洗面所に行った彼女は、誤って瓶を落とした。彼女は「今日は変だわ」と呟き、幼少時代に作業員が抱き付いて頬にキスしてきた時のことを思い出した。

 夜、セヴリーヌはピエールに、「結婚前に娼館へ行ったことはある?」と質問する。ピエールが「滅多に行かないよ」と答えると、彼女は「中はどんな感じ?」と訊く。ピエールが「女を1人選んで個室で30分過ごす。終わると虚しくなる。ザーメンの放出だ」と説明すると、セヴリーヌは「やめて」と告げた。
 数日後、セヴリーヌはテニスクラブでアンリエットと遭遇し、挨拶を交わした。アンリエットが去った後、ユッソンが来てセヴリーヌに「素知らぬ顔で二重生活を送ってる。夫への復讐のつもりが、金に走った」と教えた。

 セヴリーヌが「理解できないわ」と言うと、ユッソンは「最古の職業だ。昔は良く通った。ジャン・ド・ソミュル街11番地にあるアナイスの館だ」と語った。彼はセヴリーヌの頬にキスし、「ご主人に内緒で会いたいな」と告げて去った。
 セヴリーヌはアナイスの館へ行き、娼婦が入って行くのを目にした。サングラスを着用して出直したセヴリーヌは、聖体拝領でパンを嫌がった幼少期を回想した。アナイスの館を訪ねた彼女は、働きたいと申し出た。

 アナイスの説明を聞いたセヴリーヌは、やはり働かずに立ち去ろうかと考える。しかし結局は2時から5時の勤務時間で働くことを決め、その日から仕事をすることになった。セヴリーヌは病院へ赴き、昼休みのピエールに「どこかで昼食をしない?」と持ち掛けた。
 ピエールが「病院長と約束があるんだ」と言うので、セヴリーヌは病院を後にした。アナイスの館に戻ったセヴリーヌは、もうすぐ娼婦のマチルドとシャルロットが来ることを知らされた。アナイスは呼び名を決めるよう促し、セヴリーヌを「昼顔」と呼ぶことにした。

 製薬会社経営者で上客のアドルフが来たので、アナイスはセヴリーヌを紹介した。セヴリーヌが強張っていると、アドルフはベッドに押し倒した。セヴリーヌが嫌がって逃げようとすると、アナイスが「いつまで気取ってるの」と説教する。
 アドルフの元に戻ったセヴリーヌは服を脱がされ、下着姿でベッドに押し倒される。またセブリーヌが嫌がると、アドルフは平手打ちを浴びせて「娼婦のくせに、いいかげんにしろ」と声を荒らげた。セヴリーヌはおとなしくなり、彼を受け入れた。

 家に戻ったセヴリーヌは、ピエールが見ている前で縛られてユッソンから泥を投げ付けられる夢を見た。1週間後、セヴリーヌはアナイスの館へ赴き、「また働きたい」と告げる。アナイスは「ずっと連絡もせずに。他の娼館ならクビよ」と呆れるが、セヴリーヌが懇願すると承諾した。
 セヴリーヌは世界的権威の名医であるアンリの相手をするが、少し話しただけで交代を命じられた。アナイスはシャルロットをアンリの元へ向かわせ、セヴリーヌには隣の部屋の小窓から見学させた。アンリは下僕としての扱いを望んでおり、シャルロットが罵って顔を踏み付けたりバラ鞭で叩いたりすると喜んだ。

 セヴリーヌはアジア人の相手をすることになり、小箱に入れた物を見せられた。アジア人が去った後、メイドのパラスは血が付いたタオルが落ちているのを見つけた。パラスは「恐ろしそうな男ですね」と言うが、セヴリーヌは「最高に感じたわ」と微笑を浮かべた。
 彼女がカフェにいると、公爵が声を掛けて来た。「金は好きかね?」と訊かれたセヴリーヌは、「ええ」と即答した。すると公爵は「屋敷に来てほしい。宗教的な儀式をやるだけだ。謝礼は弾む」と語り、名刺を渡した。

 セヴリーヌは迎えの馬車で屋敷を訪れ、執事が用意した儀式用の服に着替えた。セヴリーヌが棺に入ると公爵は亡き娘として扱い、傍らで語り掛けた。儀式が終わると外は大雨だったが、執事はセヴリーヌを乱暴に追い出した。
 その夜、セヴリーヌはピエールのベッドに移動し、彼に寄り添った。「無理しなくていいよ」とピエールが言うと、彼女は「違うわ。だんだん一緒に寝たくなってきたの。もう怖くない」と微笑みを浮かべた。

 ある日、アナイスの館にチンピラのイポリットが若い相棒のマルセルを伴って姿を見せた。シャルロットとマチルドはセヴリーヌに、彼がイカれた奴だと教えた。イポリットは新入りのセヴリーヌを抱こうとするが、マルセルが「貰うぜ」と言うと譲った。マルセルは高圧的で荒っぽい男だったが、セヴリーヌは彼に強く惹かれた。
 マルセルもセヴリーヌを気に入り、一緒に外出したり店に通ったりするようになる。ピエールはセヴリーヌに、「君は変わった。明るくなった」と告げる。笑顔で彼の話を聞いていたセヴリーヌだが、「子供を作りたいと言ってくれないか」という言葉に黙り込んだ…。

 監督はルイス・ブニュエル、原作はジョゼフ・ケッセル、脚本はルイス・ブニュエル&ジャン=クロード・カリエール、製作はロベール・アキム&レイモン・アキム、撮影はサッシャ・ヴィエルニー、美術はロベール・クラヴェル、編集はルイゼット・オートクール、衣装はヘレネ・ヌーリー。

 出演はカトリーヌ・ドヌーヴ、ジャン・ソレル、ミシェル・ピッコリ、フランシス・ブランシュ、ジョルジュ・マルシャル、フランシスコ・ラバル、ジュヌヴィエーヴ・パージュ、ピエール・クレマンティー、フランソワーズ・ファビアン、マーシャ・メリル、ムニ、マリア・ラトゥール、クロード・セルヴァル、ミシェル・シャレル、イスカ・カーン、ベルナール・ミュッソン、マルセル・シャーヴェイ、フランソワ・メーストル他。

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 ジョゼフ・ケッセルの同名小説を基にした作品。監督は『小間使の日記』『砂漠のシモン』のルイス・ブニュエル。脚本はブニュエルと『小間使の日記』『ビバ!マリア』とジャン=クロード・カリエールによる共同。ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した。
 セヴリーヌをカトリーヌ・ドヌーヴ、ピエールをジャン・ソレル、ユッソンをミシェル・ピッコリ、アドルフをフランシス・ブランシュ、公爵をジョルジュ・マルシャル、ヒッポリトをフランシスコ・ラバル、アナイスをジュヌヴィエーヴ・パージュ、マルセルをピエール・クレマンティー、シャルロットをフランソワーズ・ファビアン、ルネをマーシャ・メリルが演じている。

 セヴリーヌは冒頭の夢で、ピエールから「不感症が治れば完璧だ」と言われている。しかし彼女は不感症ではなく、ピエールとのセックスでは何も感じないだけだ。ごく普通のセックスをピエールは求めるが、それではセヴリーヌは快感を得られない。夢で見るような、自身を汚されたり罵倒されたりする凌辱的なセックスでなければ、彼女は興奮できないのだ。
 そして、それは幼少期の体験に起因している。彼女は作業員の男に抱き付かれ、粘着質にキスされる体験をしている。これがトラウマとなり、現在の彼女を形成しているのだ。

 幼少期のセヴリーヌが、聖体拝領でパンを食べようとしないシーンがある。前述した作業員の行為によって、彼女は体を汚されてしまった(と本人は思っている)。だから、神の子になる資格など無い(と本人は思っている)。
 そんな汚されてしまった体なので、愛する夫であるピエールに身を委ねて性的な快楽を味わうことなど許されない。セヴリーヌはピエールに対して、「セックスで満足させられない」「自分の体は清らかじゃない」という二重の負い目を感じているのだ。

 セヴリーヌがアナイスの館で働き始めるのは、もちろん金のためではない。性の歓びを得たいからだ。そして彼女は客を取り、ピエールとの関係では一度も無かった恍惚を味わう。アジア人が去った後には血の付いたタオルが残されており、かなり暴力的な行為があったことは容易に想像できる。
 しかしセヴリーヌはベッドに横たわったまま、「最高に気持ち良かった」と満足そうな笑みを浮かべる。アンリの情事を見て「あそこまで堕落するなんて、おぞましい」と激しい嫌悪感を見せていたセヴリーヌだが、それは同族嫌悪なのだ。本当は自分も、堕ちたいのだ。自らを解放し、性の自由を手に入れたいのだ。

 セヴリーヌは決して、ピエールを愛していないわけではない。そこに愛はあるのだが、体が満足してくれないのだ。アガペーはピエールを求めているが、エロスが他の男を求めてしまうのだ。そんな中で娼婦の仕事を始めたセヴリーヌは気持ちが解放され、どんどん明るく変化していく。
 それに伴い、彼女はピエールと同じベッドで寝たいと思うようになる。怖さが無くなり、日ごとにピエールへの愛が強くなると感じる。エロスが満足したことで、ピエールへのアガペーが強くなるという好循環を生んでいるのだ。

 もちろん、他者とのセックスで夫への愛が強くなったなんて、ピエールには決して言えない秘密だし、とても皮肉なことだ。しかし本人が黙っていれば、セヴリーヌにとっては幸せで前向きに考えられる状況だ。
 しかしマルセルと出会ったことによって、絶妙だったセヴリーヌのアガペーとエロスのバランスが狂い始める。マルセルに対する欲求が、ピエールへの愛を犠牲にしてでも得たくなるほど強くなるのだ。

 それまでセヴリーヌは娼婦の仕事を続けていても、ピエールに対して罪悪感を抱くことは無かった。その仕事で性欲を満足させていることには、罪の意識を覚えていなかった。しかしマルセルに惹かれるようになり、罪悪感を抱くようになる。
 終盤に入るとセヴリーヌは娼婦の仕事を辞め、マルセルとの関係を断とうとする。しかしマルセルは家にまで押し掛け、セヴリーヌに拒絶されるとピエールを撃って警官に射殺される。

 ピエールは発砲事件で体が麻痺し、両目の視力も失い、口も利けなくなる。いずれは回復すると医者は言っているが、当分はセヴリーヌが介護することになる。しかしセヴリーヌはピエールの容体を知っても、ちっとも辛そうな様子は無い。嘆いたりすることは皆無だし、さらに「自分のせいでピエールが撃たれた」と罪悪感を覚えている気配も無い。
 そして彼女は発砲事件があってから、性的に凌辱される夢を見なくなる。ピエールが全身麻痺で性交渉が不可能になったことで、セックスへの重圧を感じる必要が無くなるからだ。

 ユッソンはセヴリーヌに、「ピエールは全身麻痺になって負い目を感じている。だから君のことを話す。最初は苦しんでも、楽になる」と語る。セヴリーヌは必死に止めようとせず、それを容認する。そしてユッソンが去った後、ピエールが元気に回復し笑顔で会話を交わす妄想を膨らませる。
 ユッソンの告白を聞いたピエールが、実際に回復してからセヴリーヌと楽しく話すとは思えない。しかし少なくとも、セヴリーヌは彼に対する負い目や罪悪感から解放されたのだ。

(観賞日:2022年11月9日)


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