『子連れ狼 三途の川の乳母車』:1972、日本
拝一刀は虚無僧に扮した裏柳生の刺客2人に襲撃されるが、落ち着き払って斬り捨てた。額を割られた刺客は、「柳生一門は天下六十余州にまたがる。いずれへ行こうとも我らの手から逃れることは出来ぬ」と言い放って息絶えた。
幼い息子の大五郎を箱車に乗せて放浪生活を続けている一刀は、ある宿場にやって来た。彼は旅籠の澤井屋に入り、露骨に煙たがっていた番頭に五百両の入った包みを預けた。
黒鍬支配頭の黒鍬小角は裏柳生総帥・柳生烈堂の命令を伝えるため、明石柳生の指南役・柳生鞘香を訪ねた。小角は鞘香に、一刀が表柳生である幕府大目付・柳生備前守を斬ったこと、果し合いで烈堂の息子・蔵人が敗れたことを語る。
果し合いの際の約束があるため、江戸の柳生は一刀に手が出せない。そこで烈堂は、鞘香に彼女が率いる別式女(べっしきめ)を使って一刀を討つよう求めたのだ。
一刀に対する強烈な殺意を燃やす鞘香に、小角は「まさかの時には我ら黒鍬衆が」と告げた。すると鞘香は別式女の力を見せ付けるため、小角の連れて来た配下の中で一番の手練れを出すよう促した。
小角が配下の十内を指名すると、別式女の8人が彼を惨殺した。鞘香の質問を受けた小角は、一刀が明後日には明石領に入って来ること、一刀に刺客を依頼したいと願う者は魔道の護符を街道沿いの神社仏閣に張り出すことをを教えた。
明石領に入った一刀は護符を見つけ、己の居場所を知らせる道中陣を残した。それを辿ることによって、依頼の者は一刀に会えるのだ。道中陣で一刀の本陣に辿り着いた阿波藩江戸家老・平野市郎兵衛と家臣たちは、依頼金の五百両を渡した。
市郎兵衛は一刀に、依頼内容を説明する。阿波藩は阿波藍の専売によって、内情豊かな藩となっていた。しかし阿波藍に目を付けた幕府が利益を横取りするため、お庭番を送り込み、作り手たちを扇動して待遇改善を理由に一揆を起こさせようと画策した。一揆が起これば、それを理由に阿波藍の専売を禁止し、幕府支配下に収めて利益を奪おうという企みだ。
そこで市郎兵衛たちは潜入しているお庭番どもを駆り出し、一揆を起こさんとした首謀者ともども処刑した。だが、阿波藍を作る総名主の幕屋忠左衛門は厳しい処分に怯えて脱藩し、隣の高松領に逃げ込んだ。阿波藩とは険悪な関係にある高松藩は、そのことを幕府に報告し、忠左衛門を匿った。
幕府は忠左衛門を受け取るため、公儀護送方・弁天来の三兄弟を高松に差し向けるという知らせが入った。弁天来の左弁馬、左天馬、左来馬は、柳生でさえ一目置くという手練れの三兄弟だ。市郎兵衛は、忠左衛門を斬って阿波藩を救ってほしいと一刀に依頼した。弁天来を乗せた西国渡海船の永楽丸は明後日には明石港に入るので、それに乗船してほしいという。
明石港を目指す一刀は、旅芸人に化けて襲ってきた別式女3人を軽く斬り捨てた。しばらく進むと、今度はお遍路に化けた別式女2人が襲って来るが、これも始末する。大根を抱えた農家の娘に化けた別式女3人も、これも抹殺した。
最後に現れた鞘香は、一刀に斬られそうになると、着物を脱いで逃走した。明石柳生との戦いが一段落すると、今度は黒鍬衆が立ちはだかった。一刀が次々に斬り捨てると、残った2人は木陰に身を隠した。
戦いで怪我を負った一刀は、納屋に倒れ込んだ。尾行していた黒鍬衆2名は、小角に報告する。小角は手強い一刀を始末するため、大五郎を人質に取る作戦を口にする。鞘香は卑怯な方法を批判するが、小角は「いかなる手段を使っても拝一刀を討て」という烈堂の命令があることを告げる。
小角は大五郎を捕まえ、一刀を誘い出した。小角は底無し井戸の釣瓶に大五郎を吊るし、胴太貫を捨てるよう要求した。しかし一刀は拒絶し、「我ら親子は冥府魔道に生きる者なれば、常人に非ず。六道四生順逆の境は最初から覚悟の上」と言い放つ。彼は「大五郎、三途の川で母が待っている」と息子に呼び掛け、小角と手下2人に襲い掛かる。一刀は小角たちを斬り捨て、井戸に落ちた大五郎を引き上げた。鞘香は全く手出しせず、その様子をじっと見つめていた。
翌日、一刀と大五郎が乗り込んだ永楽丸には、鞘香の姿もあった。一方、阿波藩に雇われた浪人たちは甲板で弁天来を見つけて襲い掛かるが、あえなく全滅した。その浪人たち以外にも、三次というチンピラが阿波藩に雇われていた。
深夜、鞘香は阿波藩が醤油に見せ掛けて持ち込んだ油樽の存在に気付いた。彼女が物陰から様子を窺っていると、三次がやって来て油を甲板に撒いた。三次は火を放ち、海に飛び込んで逃亡した。
船室に閉じ込められた弁天来だが、落ち着き払って外套に身を包み、火中を突っ切って海に飛び込んだ。一刀は胴太貫で天井を突き破り、大五郎と共に海へと脱出した。一刀が陸地に向かって泳ぎ出すと、鞘香も付いて来た。
海辺の小屋に辿り着いた一刀は着物を脱ぎ、大五郎を裸にする。さらに鞘香を力ずくで全裸にすると、「火が無いのだ。温まらねば三人とも凍え死ぬ」と告げて体を抱き寄せた。一刀が目を閉じている間に、鞘香は刀を取ろうとした。だが、大五郎が乳房に触れると、彼女は刀から手を離した。
弁天来は高松藩の侍たちと共に、忠左衛門を乗せた駕籠を護衛して砂丘を歩いていた。見渡すばかりの砂丘であったが、弁馬は警戒心を緩めなかった。彼が気配を察知して手甲鉤を砂に突き刺すと、血が滲み出した。そこには三次が潜んでいたのだ。
同じように隠れていた阿波藩の侍たちが一斉に襲い掛かるが、弁天来は皆殺しにした。戦いを終えた一行が先を急ぐと、大五郎が立っていた。大五郎が指差した方向には、一刀が待ち受けていた…。
監督は三隅研次、製作は勝新太郎&松原久晴、原作は小池一雄(小池一夫)&小島剛夕 「漫画アクション」連載、脚本は小池一雄(小池一夫)、撮影は牧浦地志、録音は林土太郎、照明は美間博、美術は内藤昭、編集は谷口登司夫、擬斗は楠本栄一、特技は宍戸大全グループ、音楽は桜井英顕。
出演は若山富三郎(東映)、松尾嘉代、大木実、小林昭二、岸田森、新田昌玄、松本克平、江波多寛児、富川晶宏(子役)、鮎川いづみ(鮎川いずみ)、笠原玲子、池田幸路、三島ゆり子(東映)、水原麻紀、若山ゆかり、正桐衣麻、東三千、平泉征(平泉成)、水上保広、山本一郎、坂口徹、南条新太郎、西川ヒノデ、山岡鋭二郎、北野拓也、原聖四郎、沢彰、北川俊夫、池田謙二、岩尾正隆、出水憲司、伴勇太郎、藤川準、森内一夫、新関順司郎、下村義光、三藤頼枝、高木峯子、古林千恵子ら。
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漫画アクションに連載された小池一雄(現・小池一夫)&小島剛夕による漫画『子連れ狼』を基にしたシリーズ第2作。前作が1972年の1月15日封切りで、今作は同年4月22日の封切り。監督の三隅研次と脚本の小池一夫は前作から引き続いての登板。
前作から続投しているキャストは、一刀役の若山富三郎と大五郎役の富川晶宏のみ。鞘香を松尾嘉代、左弁馬を大木実、小角を小林昭二、左来馬を岸田森、左天馬を新田昌玄、市郎兵衛を松本克平、三次を江波多寛児が演じている。別式女の顔触れは、鮎川いづみ(鮎川いずみ)、笠原玲子、池田幸路、三島ゆり子、水原麻紀、若山ゆかり、正桐衣麻、東三千の8名。
前作では、拝一刀が大五郎を連れて放浪の旅をしている事情について説明するための回想シーンが多く持ち込まれていた。そういう背景の説明が、今回は不必要だ。
で、だったら今回は前作よりも現在進行形のドラマが厚くなっているのかというと、さにあらず。むしろ前作よりドラマ要素は薄くなっているんじゃないか。やっていることは、「アクション、アクション、またアクション」である。
1作目の大まかな構成は、「一刀と柳生の因縁を描く前半、依頼を受けて遂行する後半」という具合だった。今回は大まかに言うならば、「黒鍬衆や裏柳生と戦う前半、依頼を遂行する後半」といった感じだ。まあ前半の間に依頼を受けたり、後半も裏柳生が絡んだりということはあるので、2つの話は重なる部分もあるんだけどね。
どうであれ、前作と同様に、複雑に入り組んだ人間関係や意外なドンデン返しのある物語は用意されていない。「次々に現れる敵を一刀が殺していく」という、とてもシンプルな構成になっている。
前作で柳生烈堂は「どこへ行き、またいかなる所で生を得ようとも御府内の外なればお構いなしにしてやる」と約束していたはずだが、そんなの関係ねえとばかりに、冒頭から裏柳生が襲って来る。「江戸の柳生は約束があるから手出しできないけど、他の地方の裏柳生は関係ない」ってことらしい。
そんな裏柳生(明石柳生)と黒鍬衆、そして弁天来が今回の敵。前作よりも、アクションシーンのケレン味は遥かにパワーアップしている。襲って来る敵のキャラクター、襲撃方法、使う武器、一刀の戦い方、残酷描写といった様々な方面で、工夫が凝らされている。
香港アクション映画やマカロニ・ウエスタンの要素を取り入れたと思われる、ケレン味に溢れた痛快娯楽作品だ。この作品、とにかく血がドバドバと出まくり、死体が転がりまくる。スプラッター時代劇だ。
別式女たちが黒鍬衆の手錬れを取り囲むシーンでは、次々と手足を切り落とされた十内が、ダルマ状態で転がる。それを見た松尾嘉代が、高笑いを浮かべる。いいねえ、そのクレイジーな感じ。
最初から最後まで、とにかく拝一刀は戦いの連続。まずは冒頭、柳生の刺客が襲ってくる。脳天に刀を落とすと、なんと敵は頭を斬られて血を流しながらの真剣白刃取り。そこへ後ろに潜んでいた男がジャンプして前の男の肩に飛び乗り、大きくジャンプして襲い掛かってくる。
しかし拝一刀、箱車に装着してあった斬馬刀を手に取り、飛び掛かってくる敵を突き刺す。倒れ込んだ敵から血がプシューと吹き出る。続いて、真剣白刃取りの状態を保ったままで、前の男が膝から崩れ落ちる。
別式女たちは、3班に分かれて襲ってくる。まずは旅芸人に扮した面々。次は旅の2人組。一刀は1人の腕を落とし、もう1人の首を斬る。次は洗った大根を抱えた女たち。大根を投げ付けると、それが箱車に突き刺さる。
大五郎がスイッチを押すと、箱車から仕込み刀が飛び出して別式女を突き刺す。箱車は007シリーズに登場するボンドカーを思わせるような乗り物であり、その作品ごとに色々な仕掛けが披露される(ちなみに前作では、底に張ってある鉄板で弾丸を弾き返した)。
鞘香は戦う中でピンチに陥ると、高くジャンプして着物をスルッと脱ぎ、薄い鎖帷子姿になって、後ろ走りで去っていく。次は黒鍬衆。黒鍬衆が鎖を投げて胴太貫を奪うと、一刀は箱車に装着してある斬馬刀を取り、箱車を蹴り飛ばす。
そこには大五郎が乗っているのだが、彼も戦いに参加する。大五郎がスイッチを押すと、両サイドの車輪の中央から刀が飛び出し、敵の足を次々切り落とすのだ。
さすがの一刀も連戦は厳しく、傷付いて倒れる。その隙に小角は大五郎を連れ去り、縄で井戸の上に吊り下げる。一刀はフラフラで意識を失っているぐらいなんだから、その機会に討てばいいんじゃねえかと思うが、そこはスルーしておこう。
さて、井戸にやって来た一刀は、息子を救うために刀を捨てようとはしない。だが、親子はアイコンタクトで全てを承知する。大五郎が草履を落とし、それが井戸に落ちて水がポチャリと音を立てる。音がするまでの時間で深さを読み取った一刀は小角と手下たちを斬り、大五郎を引き上げる。大五郎は着物こそずぶ濡れだが、頭部は全く濡れていない。つまり、足が着く程度の深さだったということだ。
炎上する船からの脱出というアクションシーンや、弁天来が砂の中に潜んでいた侍たちを斬りまくるチャンバラを挟み、いよいよ映画はクライマックスの決闘へ。
一刀の敵は弁天来トリオ。弁馬は手甲鉤(てっこうかぎ。長い鉤爪)、天馬は棍毘(こんぴ。トケトゲの付いた鉄の棍棒)、来馬はあられ鉄拳(トゲトゲの付いたフィンガーグローブ)の使い手。舞台は砂漠。左天馬は頭をパックリと割られ、左来馬は投げた刀を腹に突き刺される。
最後の左弁馬は首を斬られるが、すぐには死なない。「首が……ワシの首が、鳴いてるように聞こえる。首袈裟に斬った切り口が木枯らしのように鳴るのを虎落笛と呼ぶそうな……一度、そんな音が出るように斬ってみたいと思ってはいたが、己の首で聞くとは、笑止」と呟いて倒れ、血がドバーッと砂漠に溢れ出る。
その後に一刀が護衛の侍たちと忠左衛門を斬るシーンはあるけど、そこはまあ、付け足しみたいなもんだな。
仕事を終えた一刀は箱車を押して歩いているが、不意に胴太貫を抜く。その刀がアップになると、それと交差するように刀が出現する。カットが切り替わると着物姿の鞘香がどこか哀しげな表情で木の傍らに立っており、その手には刀がある。つまり、鞘香が待ち受けていて襲って来たので、一刀が斬ったということだ。
相手が女であろうと、一刀は情けを掛けるようなことは無い。襲って来るのであれば、相手が男だろうが女だろうが容赦せず、冷徹に斬り捨てる。何しろ彼は、冥府魔道を行く男なのだから。
カメラアングルや構図、カット割りにも注目したい。例えば冒頭、柳生の刺客と一刀の戦うシーン。走ってくる刺客と待ち構える一刀を交互に映し出すが、若山先生を画面の右側に寄らせてから刀を抜かせる。そして刀のアップ。続いて一刀と大五郎が並んでいる姿。走ってくる刺客。そして一刀の顔のアップ。次に大五郎の顔のアップ。これを2回繰り返している。
続いては横からの映像に切り替わり、そこからスローモーションとなる。続いて刺客サイドからの映像になり、刺客の向こう側から刀を振るう一刀の姿。ここだけでなく、とにかく映像表現でもカッコ良くやろうという意識が感じられる。
テーマ曲もカッコいい。ドラムが激しく鳴り響き、どこかエキゾチックな雰囲気さえある。全てにおいて「ちょっとイカれたカッコ良さ」が感じられる。ただ、画面が暗すぎて何が起こっているのか分かりにくいシーンが幾つかあるのは、ちょっぴり残念なところである。
なお、前作では一言も発しなかった大五郎だが、今回は始まって早々、旅籠の風呂場で「ひとちゅ。ふたちゅ。みっちゅ。いちゅちゅ」と初めて言葉を発する。小屋に倒れ込んだ一刀に近付いた時には、「ちゃん」というセリフも口にしている。
(観賞日:2013年4月23日)
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