きみの言い訳は最高の芸術
『きみの言い訳は最高の芸術』/最果タヒ 2016年10月初版
最果タヒさんという作家さんの本をおそらく初めて読んだ。
この本は作者がブログに書いていた文章をまとめたものらしく、ひとつのタイトルにつき1〜4ページくらいの作者の思考のかたまりに触れていく作品だった。
そうだ。言われてみれば確かにそのとおりで、
自分もかつて同じようなことを感じたことがある。
だけど「あまりに些細なこと」として見逃していた。あるいは、そう感じたという事実にすら気づいていなかった。
最果さんは、そうした小さな感覚を見逃さず、的確に言語化してくれる。
中にはそのあまりのストレートさに少しドキッとしてしまう文章もあった。
特に印象に残ったのは、彼女の使う比喩表現。
例えば、冒頭の章で、ふとした時に思い出すけれど、今はすっかり縁が切れてしまったかつての友人の存在を、
「閉館した故郷の美術館みたいに、私の中できらめいている」と表現するセンスにまず心を掴まれた。
元々それらふたつの語はイコールで結びついていたのかと思うほど正確な表現が、
彼女が詩人であるということの証明になっている。
特に印象的だった言葉をいくつか。
本当にそのとおりで、自分にとって最もほどよいその人との距離間を、いつだって探している気がする。
良い本を読んだとき、良い音楽を知ったとき、綺麗な景色を見たときに
どうしてわざわざ共有したくなるんだろうか。
いまだにその答えはよくわかっていない。
それでも、素敵だと思ったものは残しておきたくなる。この作品で何より素敵だと思ったのは、作者のあとがきの文章だった。
SNSの「いいね」なんかもそうだけど、シェアしたものの良さが本当に伝わっているかなんて分からない。
ただ、何かを「良い」と感じた人が存在している、存在していたということが、ただ、通りすがりの誰かの視界の端に一瞬でも映れば、ひとまずそれで十分なんじゃないか。
今はそう思うことにします。