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耳をすませばとあの夏の日

金曜ロードショーで「耳をすませば」をやっていた。
ジブリのCMが流れ出すと、夏がきたなと思う。
それはいつからだろう。

10年前、まだ大学生だった時も、
夏の金曜ロードショーはジブリだった。

2年生の夏。
寝る時間もその日の予定も、
なにもかもが自由だった時。

ある人への叶わない思いを
ひそかに抱えていた時。

✱ ✱ ✱

あの年も、トトロと耳をすませばどちらも放送していた。トトロは、好きだった人と見た。

間接照明の薄暗い部屋で、ふたりで見た。
2時間くらいで終わってしまうことはわかっているのに、もう展開のわかっているひとつひとつのシーンが、少しでも長く、ゆっくりと進めばいいのにと思った。

耳をすませばは、録画したものをひとりで見た。
たぶん好きな人を誘ったんだと思うけど断られたんだと思う。

だから、いつも通り夜更かしした朝の4時に見始めた。

夏だともう空が白んで、鳥の鳴き声なんかが聞こえてくる。遮光カーテンをしっかり閉めて、小さなワンルームのテレビの前に座って見た。それが、耳をすませばを初めて見た時だった。

✱ ✱ ✱

まだ何者でもない(と思っていた)時。
中学生と大学生ではまた全然違うけど、
下手に現実を知った気でいる分、大学生の方が厄介かもしれない。あまり心穏やかでなく見ていたような気がする。


何になりたいかもわからない。
何かっていうと好きな人のことだけを考えていたかったけど、その人は同性で、男性のことが好きで、私はまだ周りの人にもカミングアウトをしていなくて。だからどんなに飲み明かして一緒に酔いつぶれる友達がいても、相談もできず、色んなことを隠してごまかして過ごしていた。

だから友達と話す将来は、自分にとってすこしずれていて、好きな人と一緒に過ごす未来もなんだかうまく想像ができなかった。

ずっと好きでいられるわけなんかないと思いながら、人生の先をいく好きな人の毎日の中に、少しでも自分が登場したらそれで、それだけで胸がいっぱいになるようなそんな時間を過ごしていた。


やりたい仕事もなければ、結婚したいわけでもない。

時間も気にせず本を読めることが幸せだったのに、1年、2年と過ごしていくうちに、その時間も有限だと知らされる。

4年間のうち暢気に過ごせる時間なんてあまりにも短い。

何者でもなくて何者にもなれそうにないと思う日もあれば、もしかしたら自分には、まだ気づいていない才能や天職があるのかもしれないと思う日もあった。

✱ ✱ ✱

聖司くんのおじいさんが話す、
“ 手間のかかる仕事”というのは、今見ると素敵な話だ。カントリーロードの訳詞と相まって、自分の足で進もうとする雫の大きな支えになっている。今の自分は、その“ 手間”がどれだけ長くかかり、大変なことか想像できるくらいには大人になった。

“ 1つしか生き方がないわけじゃない”という雫のお父さんの言葉は、先の見えない不安定な時期に、どれだけ心強いだろう。

だけど、
“ 人と違う生き方はそれなりにしんどい”
“ 誰のせいにもできないから”
ということも教えてくれる。


ただただ、このまま何者でもない自分でいたいと思いながら、
永遠に続くはずのないことなんてわかってはいるけど、先の見えない不安と少しの自暴自棄と、ほんのちょっとの希望のごちゃまぜになった感情に身を浸しながら、当時の私は何を思って見ていたのだろう。それは忘れてしまった。何かの時にまた思い出すかもしれない。



冬の日に、雫と聖司くんが、家を抜け出してふたりで自転車に乗って坂道を上がって朝焼けを見に行くシーンは、当時の自分には眩しすぎた。

自分にはなかった青春と、憧れと。
好きな人が自分のことを好きだと思えることは、奇跡だよね。


あれから10年歳をとって、
自分が中学生の時からなんてもっともっと歳をとって、
少しだけ力を抜けるようになった。

流れに身を任せて、いつの間にかここまで来た。

お互いに好きになれて、
友達にも紹介できて、
そんな彼女にも出会えた。

そんなことは、想像できなかったけどできた。
いや、正確に言うと、ずっと願ってはいたのかもしれない。

あの頃の自分にはロールモデルがいなかったけど、
もうそういうものも必要なくなった今、
世の中にはあの頃より少し、色んな生き方が増えたようには思う。

雫と聖司くんは、あのまま何年もずっと思い合ったのだろうか。
それともふたりはいつの間にか別々の道を歩き出して、何年も何十年も経った冬の朝に、そんなこともあったなと、ふと思い出したりするのだろうか。

何が言いたかったのか全然わからないけど、
耳をすませばを見るといつも思い出すこのなんとも言えない感情を書いておきたくなった。

カントリーロードのメロディーを聴くと、
その甘酸っぱさが身体中に広がる。



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