うつ病のあなたとどう向き合えば良いのだろう
Top Photo:動物園の檻の奥で寝息をたてるキツネ
うつ病が話題にあがるたびに思い出す話を書きとめたい。私が大学生のときの実体験だ。
10人ほどで集まったなんでもない飲み会での一幕、時刻は23時を回った深夜だった。
ひとりが「このあとバイトの夜勤なんだ、死にてぇ」と愚痴をこぼす。輪の中にいたひとりは軽いノリで「夜勤とかうつだなァ」と返した。
すると、それを聞いたひとりが黙っていられずに立ち上がり「自分で選んだバイトなら、うつだとか言うなよ!軽いノリで死にたいとか言いやがって、人生やめる前にバイトやめろよ!?」と激しい口調で叱責し、なだめようとする周りを振り切って飲み代を置いて帰ってしまった。
このとき、私を含めたその場にいた面々は皆「酒飲み過ぎてるな」だとか「いきなりどうしたんだ」だとか、驚くと同時にいら立ちを覚えていた人もいた。彼の弟がたった十代にして自死していたことを知ったのは、大学を卒業したあとのことである。彼の弟は死にたい願望を抑えきれずに専門の病院への入退院を繰り返していたが、両親や兄弟の献身的な支えむなしく若くして命を絶った。特別親しいわけではない私がどういうわけか詳細を知っているのも不思議な話だが、近くないからこそポロリと話してくれたのかもしれない。
とはいえ、怒った本当の理由を聞いたときも、私は同情と同時に、言葉狩りになってしまうのは本人にとっても損ではないかと考えてしまった。ひとえにあの頃の私の未熟さである。
あれから10年が経った。私に関しては自身の妊娠を機に産後うつについて情報を集める機会があったが、それでもうつ病とは何か分かっていないというのが正直なところだ。分からないからといって、もちろんそれが「甘え」だとか「弱さ」だとか言うつもりは毛頭ないが、うつ病の人を前にしたとき、「がんばれ」と励ましの言葉をかけてはならない、かといって孤独にしてもいけない、それでは私はどうしたらいいのだろう。
ひたすら話に耳を傾けることが大事と言われても、病状が酷ければ酷いほど専門機関への受診を進めてしまうのが人の情ではなかろうか。聞き役に徹したところで、取り返しのつかない事態になってしまったら 聴くだけだった自分を責めるのではないか等々、いざとなったときの自分の身の振り方が分からない。
自分に関しても、産後うつのような症状がなかったかと問われると、実は無意識に涙が出たり、下痢が続き体調が思わしくなかったり、頭痛がおさまらずに2か月ほど強めの鎮痛薬を服用したり…いくつか心当たりのある症状はあった。それでも、病院に行くこともなく症状がなくなったことを思うと産後うつとはまた違うのかとも思ってしまい、自分の症状なのに言葉では言い表しにくいという実感だ。
ちなみに風呂に入るのが本当に苦痛な期間もあった。風呂に入れないというのもうつ病の代表的な症状のひとつだそうだが、だとしても頭痛薬だけで治るとは思えないからうつ病とはもっとひどいものなのだろうか。…私よりももっとひどい人がいるから、と自己暗示をしている本人がうつ病だったとしたら?と、考え始めるときりがない。
骨折や打撲と違って目には見えない心の病だからこその難しさ。命を大切にという訴えが届かない人に、私ができることはなんだろうか。
「自殺の原因は」と騒ぎ立てる下品な報道に腹を立てつつ、あの日飲み会を退席した友人にかける言葉がなかった私を思い出した今日だった。
肌寒さを感じる季節、風邪を引かないように過ごしたい。
2020/09/28 こさい たろ
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