誰の、どんな行動で、何を実現したいんだろう??~『行動を変えるデザイン』を読む~「探索」編
※この記事は「『行動を変えるデザイン』を読む」マガジンの一部です。
こんにちは。『行動を変えるデザイン』翻訳チームのtantotです。今回は『行動を変えるデザイン』の第Ⅱ部について紹介します。
第Ⅰ部では、心のはたらきと行動変容の手法についての基礎知識を整理しており、第Ⅱ部からいよいよ行動変容デザインの実践編にはいります。
図:『行動を変えるデザイン』、オライリー・ジャパン、2020年、p. 24より
第Ⅱ部は上の図でいう「探索」フェーズ。大まかに言うとプロダクトが目指す「ゴール」を決めるフェーズです。そこでは以下の3つを明確にしていくべきだ、と本書では述べられています。
・ターゲットアウトカム(成果)
・ターゲットアクター
・ターゲットアクション(行動)
つまり「誰の(アクター)」「どんな行動で(行動)」「何を実現したいのか(成果)」を考えようということです。
例えば、ダイエット支援アプリならば
ダイエットしたい人が、毎日10分の運動習慣をつけることで、5kgの減量に成功することを目指す
というような宣言を作るのです。
これはプロダクトが何を目指すのか、という方向性を決めるものであり、第Ⅲ部以降で実際にプロダクトを作り込んでいくときの明確な指針となるように、しっかりと決める必要があります。
どうやって考えるの?
もちろん、ゴールから逆算するのが定石なので、以下のような流れで考えていきましょう。
①成果(アウトカム)を決める
※この時点では、「どうやって実現するか」は考えない
↓
②成果を実現するために、ユーザーがとりうる行動を考えうる限りリストアップする
※この時点では、あまりターゲットユーザーを具体化しすぎない
↓
③ターゲットユーザー像を明確にする=ペルソナを作る
↓
④②でリストアップした行動の中から、ターゲットアクターにとって最適な行動を選び出す
ちなみに第Ⅲ部では、「それをどうやって実現するのか」というHOWのコンセプトに入りますが、第Ⅱ部では、「ここではまだHOWは考えない」ということが何度も強調されています。
「どうやって実現するか」を先に考えてしまうと、アイデアが無意識のうちに制約を受けてしまうからです。
成果(アウトカム)を決めるためのTIPS
ここで設定するターゲットアウトカムは、できる限り具体的で、測定可能な指標であることが望ましい、と言われています。よいターゲットアウトカムを決めていくためのヒントをいくつかご紹介しましょう。
プロダクトのビジョンから落とす
当たり前ですが、プロダクトを作るからには、何か実現したいビジョンやミッションというものがあるでしょう。誰もが健康な毎日を過ごせるようにしたいのかもしれないし、誰もが理想の家探しをできるようにしたいのかもしれません。
いずれにせよ、プロダクトが達成すべき成果は、そのビジョンを具現化するものでなければいけません。
たとえば、「誰もが健康な毎日を過ごせるようにしたい」がビジョンであれば、「そのビジョンが達成されたかどうかを、何を見れば判断できるのか?」を考えましょう。健康診断でA判定になる人の数? 医療費の削減額? その答えは、自分たちのビジョンを突き詰めて考えることから出てくるでしょう。
ユーザーの「思い」や「知識」は成果にならない
これはとても大事です。例えばダイエットアプリの場合、ユーザーがどれだけダイエットの方法について詳しくなったとしても、それは「成果」ではありません。あくまで成果は「○kg減量できた」という目に見える結果でなければ意味がない、というのが本書の主張です。
逆に、成果がちゃんと実現できるなら、ユーザーの意識や努力は不可欠ではない、ということです。一生懸命いろんなことを我慢しながらダイエットをしなくても、毎日の食事を「少し小さなお皿で食べる」という習慣を身につけて、無理なくダイエットができればよいし、強い意志でコツコツ貯金をするよりも、給料から天引きされて自然と貯蓄されていく仕組みを作るほうがよい、ということです。これは第Ⅰ章で紹介されている「チート戦略」です。
成果は一つにしぼる
複数の成果を定義したくなることもあるでしょう。例えばダイエットアプリなら、「体重を減らすこと」と「体脂肪率を減少させること」、どちらも大事な気がします。
それでも、成果はできる限り1つに絞りましょう。
KPIが複数あると、マネジメントは格段に難しくなります。何らかの計算ロジックで統合的な成果指標を定義する方法もありますが、それよりも、何が一番大事なのかを必死に考えて、1つの明確な成果を定義するのが圧倒的におすすめだと、本書では言っています。
「どうやって実現するか?」はまだ考えない
僕らの考えは、ついつい小さくまとまりがち。「どうやってこんな成果を実現したらいいんだろう?」ということに頭が向くと、ついついわかりやすく、達成しやすい目標を置きたくなってしまいます。
でも、誰でも簡単に実現できる成果だったら、わざわざプロダクトを作ってサポートする必要もないはず。簡単には実現方法がわからないからこそ、行動変容デザインの出番なんです。
アクターと行動(アクション)を決めるためのTIPS
思い込みにとらわれず、とにかくたくさんひねり出す
「○kg減量するために必要な行動は?」と聞かれて、パッと思いつくのは、毎日運動する、甘いものを食べない、といった行動ですよね。
でもそんなのは当たり前だし、誰でも思いつくのにできていないということは、簡単そうで実は難しい行動だ、ということです。
だからこそ、まずはとにかくたくさん考え出すことが大事です。一見関係なさそうな行動でも、まずはリストアップした上で、取捨選択していきましょう。
例えば上の例でいうと、以下のような行動もありうるかもしれません。
・定期券を買い替える
・散歩の経路を変える
・水を大量に買う
・小さな冷蔵庫を買う
・ペットを飼う
もしかしたら、ほとんど関係ないように見えるものもあるかもしれません。でも例えば、定期券の範囲を会社から少し遠い駅までにして、ひと駅分歩くことにしたら? あるいは、ペットを飼うことで、これまでスイーツに使っていたお金をペットに使うようになったら? と考えると、意外なつながりが見えてくるかもしれません。
アイデアを出す方法はどんな手法を使ってもいいので、最低でも5つ、互いに全く似ていない行動を考えつくまでやめてはいけない、と本書では述べています。
行動を軸にターゲットユーザー(ペルソナ)を考える
本書のアプローチで私が面白いと思ったのは、「ペルソナを考えて、その行動を考える」のではなく、「ターゲットアクション(行動)を考えて、それを軸にしてペルソナを考える」というところです。
再びダイエットの例を出すと、「○kg減量する」という成果に向けて、「毎朝、家で運動する」というターゲットアクションを考えたとしましょう。ここで、「毎朝、家で運動する」という行動に対してどのような反応/態度をとるか、という軸でユーザーを分けようという考え方です。
そうすると例えば、「朝忙しくて時間がない人/時間に余裕がある人」という軸でペルソナが作られるかもしれません。本書ではこれを「行動ペルソナ」と呼んでいます。
一般的なペルソナづくりでよくある落とし穴は、やたらとプロフィール設定は細かい割に、いざプロダクトづくりで参照しようとしてもあまり使えない人物像を作ってしまう、というものです。経験ある方も多いかもしれません。
ここでは、「ターゲットアクションに対する反応/態度」という明確な軸があることで、よりシャープなペルソナが作れます。また、ターゲットアクションに対する反応が違うということは、異なるコミュニケーション戦略が必要になるということであり、この後プロダクトづくりを進めていくために非常に役立つものができるのです。
探索からデザインへ
探索フェーズで目指したい成果とそのための行動が明確になったら、次はいよいよプロダクトデザインの実践フェーズに入ります。次回をお楽しみに!
書籍紹介ページ:
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~『行動を変えるデザイン』第Ⅱ部目次~
第Ⅱ部 適切な成果、行動、アクターを見つけ出す
第4章 何を達成したいかを明らかにする
プロダクトのビジョンから始める
ターゲットアウトカムを見極める
その他の制約条件を明らかにする
ユーザーがとりうる行動の一覧をつくる
第5章 適切なターゲットアクションを選択する
ターゲットユーザーを調査しよう
理想的なターゲットアクションを選択する
成功と失敗を定義する
とても多様な集団に対処するには
まとめ