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「短編」住人の紫陽花。(3/5)


「行ってきます」

カン…

外は霧雨が降っていた。
ビニール傘をさすが、空気より軽い小さな水滴は風を泳ぎ僕のシャツにしがみつく。

駅まで片道30分。
大学近くの駅まで8駅。
そこから歩いて大学へ。

専攻している講義が2限目からと言うこともあり、1限目を終えた生徒が各校舎から出てくる。

「君だね」

後ろから肩を叩かれ振り返ると、黒のジーンズに黒のシャツの男の人がニコッと笑い立っていた。

「えっと…」
「そりゃ分からないよね。僕は真崎。茶道会の幽霊部員」
「あー。お世話になってます」
「来海くんだろ?この前高田部長と一緒にいる時たまたま君を見つけてその時に教えて貰ったんだ。何だか急いでるみたいだったから声をかけ損ねて」
「多分。夕方ならバイトに急いでだんだと思います」

真崎先輩は会話をしながら、僕の肩をちらちらと気にしている。そして、意を結したのか「初めましてって挨拶した後にいきなり言われたらびっくりするかもだけど」っと前置きを置き

「来海くん。霊ついてるよ」
「えっと…ついてるって何処にですか?」
「肩。肩。ついてるって言うか、白いモヤだからここには居ないけど、何処かで霊と会ってるよ。女性かな?」

肩をじっと見ながら、何か情報を探っている様だった。

「20代?若いね。思ったよりずっと来海くんの生活に近いところにいるね」

後は…っと眉に皺を寄せジッと肩に集中するとハッとした表情の後に
「紫陽花?」
っとポツリと言った。
そして、肩の目線が外れ僕の目を見る。

「あっ。ごめんごめん。いきなり言われたらびっくりするよね?気持ちがられるから辞めきゃって思っても、ついついね」

そう言うと、じゃ。っと食堂の方へ歩いて行った。
一方的に住人の事を当てられ、真崎先輩は本物だっと思うと同時に「紫陽花」って何のことだろうっと疑問を残されたままになってしまった。

この日はサークルもなくバイトもないため、スーパーでカレーの食材を買い駅の方まで歩いていると、併設された本屋に入る真崎先輩を見つけた。

紫陽花の事を聞きたくて…
でも、面白おかしく彼女を笑われるのも嫌だし…
考えたが、しっかり事情を話して分かって貰おうっと本屋へ入った。

真崎先輩を探していると、後ろから、よっ。っと声をかけてきた。

「今日はカレーかい?」
「そうですね。カレーをしようかと」
「あれだろ?紫陽花の事を聞きたいんだろ?」
「え?何で分かったんですか?」
「ほら、肩のモヤが教えてくれてる。それに大丈夫だよ。誰にも言わないし面白がったりもしない」

思っていた事を全部当てられた。

「えっと、僕が思っていた事も全部…」
「うん。君の肩のモヤが教えてくれた」

真崎先輩は全てをお見通しの様に答える。

「僕はあれだ。霊を通しての事は分かるけど、それ以外の事は分からないから、君が良かったで良いんだけど詳しく話してくれるかい?」

そして、僕も真崎先輩は本屋を出ると駅の近くの喫茶店に入り、家での出来事を全て話した。

「そうなんだ。驚きだね。そんな話は初めて聞いたよ。それにモヤからでも分かるけど、君は凄く女性の霊に信頼されてるみたいだね。でも、彼女も凄く君を信頼するために頑張ったみたいだよ」

真崎先輩はコーヒーを飲み干すと

「僕にも会わせてくれないかい?その彼女に。もう少し、紫陽花について彼女に聞いて、来海くんに伝えた方がいいかな?って思うから」

「でも、凄く家はボロいですよ?」
「大丈夫さ。1人暮らしの学生は尊敬している」
「なら分かりました。でも家に着いたら先に彼女の了承をとってもいいですか?もし駄目なら失礼ですが、帰ってもらいますけど」
「それは、もちろんだよ。急に知らない人来られたらそう思うのが普通だよ。そこは彼女の意思を尊重すると約束するよ」

喫茶店を出ると電車に乗り、そこから歩いて家に向かう。その間、真崎先輩のその能力の事。それが原因でいじめられてきた事。そしてまだ少し人が怖いと思ってる事を話してくれた。

「それじゃ何故、僕に話してくれたんですか?」
「何となくだよ。来海くんになら大丈夫ってそう思えたからかな?」

そんな話をしていると、家の前についた。
「じゃ、ちょっと聞いてきます」
僕は1人で先に家に上がり「ただいまと言うと」
カン…っと聞こえた。

あのさ。っと先輩の事を話した。
紫陽花の事も。

「大丈夫かい?もし嫌なら2回音を鳴らしてくれよ」

カン…

「いいのかい?本当に大丈夫?」

カン…

「じゃ。呼んでくるよ」

僕はアパートの前にいる真崎先輩に手で○を作ると「お邪魔します」っと入って来た。

そして、部屋の真ん中に置かれたテーブルに向かって「初めまして。真崎と申します。来海くんの1つ先輩で、厚かましくも押しかけてしまいました。緊張しないで、いつも通りにして頂けたらと思います」

お構いなく。そうなんですね。
真崎先輩は彼女と会話をしており、僕はそれを眺めていた。
独り言?いや、でも誰かと会話している。不思議な光景だった。

「どんなお話を?」

話している真崎先輩の独り言に割って入る。

「シャワーはもう少しぬるめが良いらしいよ」

住人の為にシャワーを出しているなんて言った覚えがない。部屋の隅を凝視して真崎先輩は会話を続けている。

「こんな事聞いたらあれだけど…君は何でここにいるんだい?君みたいな幽霊なら天に登って今頃、生まれ変わる準備に入るところじゃないかい?」

真崎先輩なりに言葉を選んで言ったのだろう。顎の下に指を添えて、相手の表情を確認しながら言った。

「なるほど…ごめんよ。」

そう言って真崎先輩は僕の部屋の裏手に繋がる引き戸を開け「これかー。綺麗だね」っと一言添えると再び住人が居るであろう部屋の隅を見た。

「これが君の生き甲斐だったんだ。でも、来海くんはそんな事はしないよ。それは君もよく知ってるだろう?」

僕は真崎先輩が見ている方向を見ると、紫の朝顔が咲いていた。一つ一つの花は小さくでも纏まれば大きくこれが、生命の集合体なんだって感じ取ることができた。

「今、聞いたことは来海くんには話して大丈夫かい?」

一瞬の間が空き「分かった。なら後から話しておくね」っとニコリと笑い。「よし、しんみりした話もおしまい。来海くんカレー作ろう。カレー」

そう言って買い物袋からジャガイモを取り皮を剥き始めた。

スパイスの効いたカレーの匂いが狭い部屋に香る。
丸いちゃぶ台に並ぶカレーが3皿。

少しだけ薄いカレー。
でも、凄く美味い。

「真崎先輩。彼女は食べてますか?」

「ん?食べてるよ。薄いねーって言ってる。でも美味しいねって」

「後、重要な事聞くの忘れてました。彼女の名前はなんて言うんですか?」

「あー。そうだったね。ついつい話し込んでて聞くのを忘れてたよ。」

モサモサのジャガイモを飲み込むと真崎先輩は聴いてくれた。「すてきな名前だね」って答えると僕の方を向き「花さん」って言うらしいよ。

「花さん…。じゃじゃー花さん改めてまして宜しくお願いします」っとカレーのある方向を向き深々とお辞儀をすると、カン…っと音がした。

つづく。

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3話で完結しようと思ってましたが、ギュッとする事が出来なかったため、もう2話くらい続きます。
すみません😓

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tano


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たのし
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