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「AIは教育をどう変えるか?新時代の学びを考える」イベントレポート
AIによって未来の教育はどのように変わっていくのでしょうか? その変化によって、教師の役割や保護者の働きかけは、どう変わっていくべきなのでしょう?
2024年8月2日から3日の2日間、教育におけるAI活用の可能性を日本を代表するトップランナーが語り合う「教育AIサミット 2024」が、一般社団法人教育AI活用協会(AIUEO)によって開催されました。イベントDAY2のトークセッションは、「AIは教育をどう変えるか?新時代の学びを考える」というテーマ。
知窓学舎塾長や多摩大学大学院客員教授を務める矢萩邦彦さん、学びの道教育研究所代表、慶應義塾大学SFC研究員を務める池田哲哉さんと、ラーンネット・グローバルスクール代表・神戸情報大学院大学学長の炭谷俊樹が登壇した、トークのダイジェストをお届けします。
探究型の学びに取り組む教育実践者が集結
矢萩:私は「アルスコンビネーター」という少し変わった働き方をしています。アルスコンビネーターとは、さまざまな情報や方法の組合せを扱う専門家です。たとえば異分野や異領域の専門性と現場経験を、他の分野に活かして相乗効果やイノベーションを狙います。
この働き方をしているのは、あらゆる業界の現場に出て社会がどのように動いているか知らないと、子どもたちに必要なことを伝えられないという実感があるからなんですね。今は社会の変化がとても速いので、「これは役に立つ」という実感を持って子どもたちに接したいんです。
その他に、探究型の学びをしながら受験対策もしっかりできる「知窓学舎」という塾を運営しています。また、多摩大学大学院では、MBA取得を目指す学生にリベラルアーツを教えていますね。今日はよろしくお願いします。
池田:小学校受験や大学受験を見据えた教育を行う塾「学びの道教育研究所」の代表をしています。実践しているのは、PBL(課題解決型学習)です。プロジェクト型で課題解決を学ぶ機会をつくって、自立を進める取り組みをしています。かなり変わった塾なのではないでしょうか。
PBLは私の研究領域で、文部科学省のマイスター・ハイスクール(次世代地域産業人材育成刷新事業)にも、PBLの文脈から関わっています。マイスター・ハイスクールは、専門高校と地域産業と自治体が組んで高校改革を進める取り組みで、PBLを社会実装するための新しい仕組みなんですよね。開かれた学校を実現する事業なんです。
私は、新しい教育の形にチャレンジする学校や地域産業、自治体に伴走しながら支援する取り組みを続けています。教育はまちづくりに関係してくるんですよね。さらにAIを活用することで、いろんなことができる可能性が広がってくる。今日はこの辺りのお話もできたらと思っています。
炭谷:私は30年近く探究型の学びの場づくりをしてきました。デンマークの教育を参考に、1996年に探究型のオルタナティブスクール「ラーンネット・グローバルスクール」を立ち上げ、2010年からは神戸情報大学院大学の学長をしています。
大学院では、AIなどのIT技術を使って社会課題を解決できる学生を育成する仕事をしてきました。子どもから大学院生まで、新しいことを生み出せるリーダーの育成に注力してきたんですよね。
今回のセッションは教育×AIがテーマですが、AIの技術が出てきたときの考え方として大きく2つあると考えています。ひとつは、今までやってきたことにAIを応用すること。例えば、学校での授業づくりや採点など、これまで取り組んできたことに、どうAIを活用できるかという視点です。
もうひとつは、AIを使って今までできなかったことをするという視点。私は、AIを活用しながら、学校の枠を超えて、新しいものをどんどん生み出していきたいと考えています。今日は主に後者の話ができればと思います。
変化の激しい今の時代、教育はどこに向かっているか?
炭谷:いま日本の教育現場で何が起こっているかを観察してみると、令和に入ってから不登校者数が急激に増えています。また、学習意欲の観点では「勉強する意欲が湧かない」という子どもの割合が増加しているというデータもあるんですね。
現場の先生からは「人手が足りなくて大変」という話を聞く一方で、金融教育や道徳など、学校で教えることが増えてきています。こういった状況の中で重要なのは、今までの前提を疑う問いを持つことです。
「そもそも学校に行く必要があるか。これからの時代にマッチしていることを教えていないのでは」「テストが当たり前にあるけれど、AI時代には意味がなくなってきているのでは」「AI時代に人間が注力すべきことは。人間らしいことってなんだろう。何を学ぶべきなんだろう」。このような問いですね。
今、教育現場ではこれまで当たり前だったことが問い直されていますよね。柔軟性を持ってこうした問いの答えを考えていくことが重要です。例えば「学校外のリソースを学びに活用できないか」「一人ひとりの自分らしさを伸ばすことに注力すべきでは」「テストや偏差値以外の、新しい評価基準をつくれないか」といったことです。
今後の教育の方向性として、「学ぶ目的」と「学び方」が変わってくるのではないでしょうか。「学ぶ目的」においては「社会課題の解決実践」「AI時代に役立つ力を身につける」がキーワードになっていきます。子どもや親、地域の大人、企業が一緒になって課題解決に関わること。それが意味のある学びになっていくのではないかと考えています。
AI時代には、今まで当たり前のようにやってきた知識を身につけることの重要性は下がって、むしろAIを活用して新しいものを生み出したり、人間らしさを発揮したりと、今までとは違った観点の教育が重要になってくるのではないでしょうか。
「学び方」については「学びの個別最適化」「五感を使った体験」「多様な学びの場・学び方の柔軟性」がキーワードになってきます。AIを活用すれば、これまでは難しかった一人ひとりへの柔軟な対応が可能になってきますよね。また、知識はAIも持っているからこそ、五感を使った体験が重要になってくるのではないかと感じます。
さらに、学校に行って毎日同じように学ぶだけではなく、地域の施設で学んだり自然の中で学んだりと、多様な学びの場が出てくるのではないでしょうか。これからの時代は、学校の先生だけではなく、いろんな人を巻き込んで教育を実践していく必要がありますよね。
AIを活用して、自分軸を見つける
矢萩:個別最適化の話でいうと、一斉授業で個別最適化をするのは、物理的に無理があるんですよね。AIを活用できると、個別最適化の可能性が広がります。最近我々が議論しているのは、AIを使いながら思考実験をすることです。たとえば、一人ひとりの回答によって、その先の質問が分岐し、子どもに合った展開をAIに作ってもらうということですね。
例えば、「あなたの性格や性質、能力などの特徴は、『遺伝』と『環境』のどちらの影響を強く受けていると思うか?」といった質問なら、AIは子どもたちの考え方が自然科学よりなのか社会科学よりなのかを判断して、次の適切な質問を個別に考えることができる。
AIと思考実験をすることによって、自分の価値観が可視化されていきます。つまり、自分軸ができてくるんです。自分はこういう人間だということがわかるんですよね。そういう意味で、AIには大きな可能性があるなと思います。進路を決める際にも役立ちますね。
さらに、自分がどういう人間かを理解することは、地域で自分にどんな活動ができるかを考えることにも繋がっていきます。AIを活用することで、地域と自分の両方を幸せにする道筋が見えると良いな、と。一斉授業でしかできないことももちろんありますが、一斉授業だけでは自分が何者なのかが見えづらいですよね。池田さんは幼児教育に関わっていますが、この辺りはどう考えていますか。
池田:私は小学校受験に特化した教育に関わっていますが、どういう子どもたちが合格していくかというと、自分軸や自分らしさをわかっている子なんです。矛盾しているようですが、自分らしさは自分だけではわからないもので、誰かと関わる中で「自分はどんな人間か」に気づいていきます。チームでPBLを実践していく中で、自分の強みを見つけていくんです。
学びの道教育研究所ではチームで課題解決にチャレンジする機会をつくっているのですが、こういう経験をすると子どもたちは「自分は世界に対してできることがある存在だ」と確信していきます。つまり、自己肯定感や自己効力感を高めることができるんです。
今までは、PBLの実践ってすごく難しかったですよね。30人のクラスでそれぞれの自分軸に合った課題解決の設定は不可能に近い。でもAIを使うと、30パターンの課題解決のアイデアを出してくれるんです。
学校でPBLのすべてをサポートするのは難しいかもしれませんが、学校の外にあるサードプレイスで子どもたちが学ぶこともできる。地域に子どもたちの学び場が広がっていくことは、子どもたちがまちづくりに関わるということ。まちの人との関わりの中で、子どもたちは「自分ってこんなことで役に立てるんだ」「こういうことでみんなが喜んでくれるんだ」と思える機会を得ることができます。
これまで偏差値という一軸だけで測られていた自分の存在を、いろんな軸で捉えることができるんです。AIを活用することで、今までにできなかった学校内にとどまらない学びが実現できるようになります。
AIは、一人ひとりの興味関心に合わせたPBLを可能に
炭谷:社会課題解決の実践の話が出ましたが、ラーンネット・グローバルスクールでは子どもたち一人ひとりが探究プロジェクトのテーマを自分で選ぶんですよね。「恐竜について調べたい」「冷蔵庫をつくりたい」など、いろんなテーマがあります。神戸情報大学院でも学生が「農業問題に取り組みたい」「教育問題について考えたい」と自分でテーマを選びます。
この自分で選ぶことが、すごく重要なプロセスなんですよね。先生に言われたことを探究するとなっても、やらされ感が出てしまってモチベーションを維持するのが難しい。だからこそ、テーマを選ぶときにAIを活用できる意義は大きいですね。
どんな社会課題があるかを調べるときにも使えますし、自分の好きなことや価値観を知ることにも使える。自分のやりたいことと世の中に存在する課題をマッチングするためにも使えます。いろんな場面で、AIが活用できるんですよね。
池田:テーマ設定に迷っている子どもたちがリアルな人やものに対峙したとき、学びへのモチベーションが誘発されることはありますか。
炭谷:それはありますね。例えば、議員の方に直接お話を聞かせてもらうと、政治が身近なものになって、モチベーションが高まったことがありました。他にも、実際にゴミを拾ってみたり家のゴミを数えてみたりする中で、ゴミ問題への関心が高まったこともあります。
やっぱり五感を使った体験が大切なんですよね。教科書でSDGsについて学んでもモチベーションは高まりづらいですが、自分で体験してみたり誰かと話したりすることで、興味が湧いてくるんです。頭の中だけで考えていても、何がやりたいかは見えづらいですよね。
池田:これまではネットワークを持った人たちが子どもたちに伴走して「この人に会ってみたら」と提案してきましたよね。でも、AIを活用することによって、その提案もAIが行うことができるのではないかと思うんです。
矢萩:まさにそうですよね。AIで学びを完結させるのは難しいですが、AIで子どもたちの体験をサポートする学びはすごく可能性があるなと感じます。五感を使った体験を実現させるために、どうやってAIを活用していけるか。この視点で考えていくと、面白いことがたくさん見えてくるように思います。
(文:田中美奈)
本トークのフルタイムバージョンはこちらから視聴できます。
一般社団法人教育AI活用協会(AIUEO)では、11/23に教育AIアプリづくりワークショップ「教育を変革する生成AIハッカソン」や来年度開催予定の「教育AIサミット2025」に向けたキックオフミーティングを開催するそうです。関心をお持ちの方はぜひ詳細をご確認ください。