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公立小で20年教員を務めた私が、オルタナティブスクール立ち上げに飛び込んだ理由。

「子どもたちの『やってみたい』をサポートできる人になりたい。私自身もやってみたいことに挑戦したいという思いで、転職を決めました」

そう語るのは、広島県で約20年間、公立小学校の教員を務めた後に、オルタナティブスクールへの転職を決断した平田美枝さん。2025年4月に開校する福岡市の「CAN!P School」の立ち上げメンバーとして、開校に向けた準備を進めています。

長年教員を務めた平田さんが、転職を決めた思いとは。これまでの経緯や転職してから感じていること、思い描いている未来を聞きました。

本当にやりたいことに挑戦したい。自分がワクワクする道へ。

—— 新卒から20年ほど教員を務められた後に転職するのは、大きな決断だったと思います。どういう経緯で、オルタナティブスクールの立ち上げに関わることになったのでしょうか。

もともとCAN!P代表の粕谷とは、3年前にこたえのない学校の「Learning Creator’s Lab」という研修を一緒に受けていて知り合いだったんです。前々から自分のキャリアについてなんとなく考えていたのですが、その研修で人との出会いに刺激を受けて「自分の本当にやりたいことってなんだろう?」と本格的にキャリアを見直すようになりました。

そうする中で、「もっと一人ひとりの子どもたちと深く関わって、それぞれがやってみたいことをサポートしたい」という思いが出てきて。子どもたちにはやりたいことをやって自信をつけてほしい。それで、将来自己実現できる力を身につけてほしい。「やってみたらできた!」という経験をサポートしたいという考えに行き着いたんです。

—— 公立小学校で働く中では、その思いを実現するのは難しいと感じられていたのでしょうか。

教員はなりたかった職業でしたし、ものすごくやりがいのある仕事でした。でも、子どもたちと丁寧に関わりたいという思いを、公立ではシステム上どうしても叶えるのが難しいなと感じることもあって。

たとえば、公立小学校だと30人から40人のクラスで一斉に勉強を教えることが多くて、なかなかみんなのペースとは合わないという子がいても、それぞれに合わせた学習が難しいところがあるんです。こたえのない学校の研修を受ける前から、「もっと何かできるのでは」というモヤモヤがありました。

授業の内容や進め方を工夫してがんばっている先生もたくさんおられます。私自身もチャレンジしてみました。しかし、それを継続して行っていくことや、学校全体で行っていくことは簡単ではなくて。一人ひとりの子どもとじっくり話をする時間を確保することがなかなか難しいと感じていました。

それで研修を経て、公立以外の選択肢を考えてみることに。いくつか転職先の候補はあった中で、CAN!Pへ見学に行ってみたんです。CAN!Pはこれまではアフタースクールをメインで展開していたんですけど、ちょうどフルタイムのスクールを立ち上げようとしていて。

私も、オルタナティブスクールで働くなら既にできあがったところよりも、ゼロからつくれる環境がいいなという思いがあって。誰かと一緒にゼロからつくることにチャレンジできる場所、そして自分が成長できる場所と考えて、CAN!Pに転職しようと考えました。

—— 公立小学校の先生は、公務員で安定していますよね。転職したいことを伝えたとき、周りの反応はどうでしたか。

家族は大反対でしたね。「絶対に転職はやめた方がいい」と言われました。広島県で教員をしていたこともあって、CAN!Pで働くとなったら福岡県に移住しないといけないという条件もある。広島で生まれ育ちましたし、全く知り合いがいない中で引っ越すことは私自身もすごく不安で、転職についてかなり迷ったのも事実です。

でも、そんなときに、仲の良い知り合いが「こんなチャレンジができることは絶対にないから、自分がワクワクする方に行った方がいいよ」と背中を押してくれたんです。私も「このまま公立にいたら、安心はするけどチャレンジはできない」という結論に行き着きました。

それと、広島で教員を続けている自分と、CAN!Pで働いている自分を比べて、未来を考えてみたんです。そうしたら、CAN!Pに来ている自分の方が前向きだった。それで「やってみたいことに挑戦したい」という思いで、最終的に転職を決めました。

教員の経験は、オルタナティブスクールで活きる

—— 今年の4月にCAN!Pに入社されてから、具体的にどのようなお仕事をしていますか。

午前中は、2025年4月から開校するCAN!P Schoolの準備をしています。転職してすぐの頃は、3ヶ月かけて学校のコンセプトについてメンバーのみんなと話し合っていました。そのあとはカリキュラムを考えたり、プレ開校の準備をしたりしてきました。

10月からCAN!P Schoolはプレ開校をはじめていて、通ってくれている子どももいるので、背景や特性に合わせて、どうしたら楽しく学習を進めていけるか工夫しています。子どもの人数が少ない分、今までよりじっくり向き合える時間や焦らせなくてもいいような余白があるように思っています。

CAN!P Schoolの子どもが帰った後の放課後の時間は、学童保育「CAN!P アフタースクール」で働いています。主に、自己調整学習の設計や実践に携わっています。学童のほうも、やっぱり様々な背景を持つ子どもがいるので、一人ひとりに柔軟に対応していくことを心がけています。

—— CAN!P Schoolでは子どもたち本人だけでなく、保護者とも関わる瞬間がたくさんあるかと思います。どんなことを大切にされていますか。

まずは、子育ての中で困っていることを受け取ることを大切にしています。前の学校に通うことが難しくなって問い合わせをくださるご家庭もありますし、子どもだけでなく保護者の方も自信をなくしている時もあるように思います。

何に一番困っているか、お子さんに対してどんな願いを持っているのかということを探りながら話を聴いています。しんどさを一緒に考えていけるスタッフになりたいですね。

「どんな風に過ごしているかな、楽しめているかな」と気になると思うので、お迎えのときにはお子さんの様子を伝えたり、連絡ツールを使って活動の写真や動画を送ったりして、その日の様子がわかるようにしています。

—— 保護者の方も安心できそうですね。入社されてから、難しかったことや大変だったことはありますか?

学校のコンセプトづくりが大変でした。CAN!P Schoolのコンセプトは「自分を拓く学校」なのですが、ここに辿り着くまでの道のりがすごく長かったです。

一人ひとりのスタッフがそれぞれの思いを持っているので、みんなが合意できるコンセプトにするのに時間がかかりました。思いを言葉にする中で、お互いの思いが違うこともあって。でも、納得するまでメンバーのみんなで話し合うことを大切にしてきました。

他に、今苦労しているのは生徒募集です。多くの人にCAN!P Schoolのことを知ってもらうことに苦戦しています。これまで公立小学校の教員として働いてきたので、ある意味子どもたちは自然に集まってくるのが当たり前でしたから、「自分たちで生徒を集めていかないといけないんだ」ということを難しく感じています。

—— 教員をやっていたことが、オルタナティブスクールでの仕事に活きていると思うことはありますか。

教員としての経験は活きていると思います。公立小学校で、どんな授業のときに子どもたちが生き生きと学んで、どんな授業のときに意欲を失うのか経験してきました。それをカリキュラムに反映できているのではないかと思います。

CAN!P Schoolでも、自分の進度で科目の学習を進めていく基礎学習の時間があり、そちらは私がメインで進め方を考えています。ただ、教員をする中でできた固定観念から抜け出しにくいということもあるかもしれません。テーマ学習やマイプロジェクトの時間などは特に、教員経験のない人の新しい発想が活きる場面もあるように思います。

転職では、何が自分にとって幸せかを考えてほしい

—— いよいよ2025年4月からCAN!P Schoolが開校しますね。どんなお子さんが向いている学校だと思いますか。

「自分はこれが好き」「これをやってみたい」という思いを持っている子が、CAN!P Schoolには合うと思います。自分の「やりたい」という思いを実現する「マイプロジェクト」の時間があって、興味のある分野をとことん探究できる環境が整っています。

私は子どもたちが自分の成長に気づいた瞬間に立ち会えたとき、すごく嬉しい気持ちになるんです。例えば「自分が思い描いていた表現で、絵が描けるようになった」という瞬間に立ち会うとか。

そうして自分で気づいていくことって、誰かに言われたときと違って、本物の気づきがあると思うんです。こういう気づきが、その子の自信になって、次に頑張れる力になりますよね。

ここでいろんなことに挑戦して、「これが得意」「この分野を極めていきたい」と思ってほしいし、「これができた」と自己効力感を覚えられるような学校にしたい。そうして子どもたちに、自分自身を見つけてほしいですね

—— 最近では一条校の教員からオルタナティブスクールへ転職する方も徐々に増えてきているように思います。転職を考えている先生にアドバイスはありますか。

何年かおきに転勤があって一緒に働く先生が変わる公立の学校とは違って、オルタナティブスクールでは同僚や上司がずっと変わらないことがほとんどです。スタッフの雰囲気がいいか・自分に合いそうかはよく見ておいた方がいいですね。

それと、オルタナティブスクールは公立学校と比べると、収入はどうしても下がってしまうので、転職前に条件をきちんと確認して、本当に自分はそれでいいのか、どちらで働くことが自分にとって幸せで豊かなのか、しっかり検討した方がいいです。自分にとって何が豊かなのかは人によって違うので。

—— 最後に、これからについても教えてください。3年後、CAN!P Schoolや平田さんご自身についてどんな未来を思い描いていますか?

子どもたちが「今日はあれをやろう」と思い浮かべながらCAN!P Schoolに来て、スタッフが声をかけなくても勝手に学びがスタートしているような状態になっているかな。基礎学習もマイプロジェクトも、それぞれのペースで学習を進めていくものですし、一人ひとりの子どもたちが「学びの当事者」になっている姿が理想ですね

また、3年後ではなくもっと先かもしれませんが、CAN!P Schoolをいろんな子どもたちにとって通いやすい学校にするために、いずれは一条校にできたらいいなという夢もあります。やっぱりオルタナティブスクール通学のハードルのひとつは費用面だと思うのですが、もっといろんなご家庭の選択肢になれればなと。

私個人としては、広島県出身なので、いずれは地元にも何かしらの形で貢献したいです。あと、子どもに伴走するのもすごく好きですが、大人に伴走することもこの社会にとって必要なことだと思っているので、年齢に関わらず伴走できる人になりたいなと。子どもも大人もイキイキできる社会にしていきたいですね。

—— 不安もありつつ、ワクワクされている様子が伝わってきました。2025年4月の開校が楽しみです。ありがとうございました!

(取材・写真:田村真菜、文:田中美奈)

平田美枝(ひらた・みえ)
広島県で約20年間の小学校教員を務めた後、CAN!Pスクール創設メンバーとしてCAN!Pに参加。現在はアフタースクールを担当し、主に自己調整学習の設計・実施に携わっている。広島愛が強い。特技は断捨離。

平田さんは、スクールの運営資金を集めるクラウドファンディングを2/2まで行っているそうです。こちらもぜひご覧ください。

CAN!Pスクールのサイト

CAN!Pサイト


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