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谷郁雄の詩のノート20

東京に雪が降った日。真っ白な雪のノートにハートを一つ指で描いてみました。近所のマンションのゴミ箱の上に雪が積もっていたので、つい、いたずら書きをしてみたくなりました。それで描いたのがこのハート。冷たく寒い冬の日が、少しやさしい表情になったように感じました。ここを通りかかった人がこのハートを見つけて、笑顔になってくれたらいいなと思いながら。明日には日射しが戻り、このハートも消えてなくなるでしょう。もちろん歴史の本にはこのハートのことは記されません。(最新詩集「詩を読みたくなる日」絶賛発売中)


「やりくり」

日々の
くらしの中に
愛は隠れている

大丈夫?
という言葉の中に
カップにそそがれる
コーヒーの中に
そっと差し出される
手の中に
残りのおかずで作った
弁当の中に

一日を
生きるのに
必要なだけの愛

足りない日も
足りすぎる日も

なんとか
やりくりしながら
生きていく


「カエル」

 井の中の蛙
 大海を知らず

ほんとに
大切なのは
これに続く後半部分

 されど
 空の高さを知る

いつのまにか後半が
省略されてしまって
無いことになっている

井戸の中から
空を見上げる
一匹のカエル

そっちの
カエルに
親しみを感じるのは
ぼくだけだろうか?


「ヒヨドリ」

ともすれば
バラバラの
ページに
なってしまいそうな
ぼくらの一日

ヒヨドリは
忙しく
飛び回り
その鋭く長いクチバシに
見えない糸をくわえて
巧みに縫いとじていく

風に舞い散る
ぼくらの
喜びと
悲しみの
ページたちを


「キリスト」

家を出て
てくてく
歩いている間に
すっかり
忘れてしまった

オレ
何を買いに
行くんだっけ?
それにしても
いい天気だなあ

あっ
思い出した!
パンとワインだ

パンは
キリストの肉
ワインは
彼の血

ヤバい
もっと
大切なことを
忘れていた

家に
財布を忘れてきた

©Ikuo  Tani  2023


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