首都直下地震が起きたとき、木造住宅密集地域で何が起きるのか
岸本まき,大佛俊泰,ツアン イリ,(2024),”木造住宅密集地域における市街地整備の減災効果に関するシミュレーション分析”,日本建築学会計画系論文集 89
https://www.jstage.jst.go.jp/article/aija/89/816/89_310/_article/-char/ja
研究の目的
「どのような市街地整備が防災性能の向上に寄与するのか」を議論する。
荒川地区、弥生町地区における2006年と2016年の市街地データをもとにシミュレーション、8つのシナリオを準備して分析している
シミュレーション結果を一部抜粋
・2006年時点における市街地状況(シナリオ1)での被害想定
平均焼損建物率は609.1m2
平均死亡者数は317.3人
・2016年時点における市街地性状(シナリオ7)での被害想定
平均焼損建物率は475.4m2
平均死亡者数は143.1人
少なくとも、2006年から2016年の10年間で、被害者数は半分以下に減少できている
しかし、2016年時点での被害想定も決して小さくはない、これからも対策していく必要がある
ほかにも極めて示唆に富んだ考察が多い、引用させていただく
複数の道路閉塞が同時に発生する可能性が高い荒川地区では,街路内に閉じ込められた人々が火災に巻き込まれ,焼死する可能性が高いことがわかる
線的事業は,整備途上において,その減災効果が十分に発揮されない可能性が高いことがわかる。全沿道建築物を満遍なく不燃化するよりも,延焼経路の要になるような建物を特定し,優先的に整備することで,より効果的な減災効果が期待できよう。
狭隘道路が多い密集住宅市街地では,避難路の確保を意識した整備促進が重要であることを示唆している。
建物単位での除却・建替えが地区の防災性能向上に寄与すること,すなわち,地区住民の自発的な建替え行動の重要性を示している。
街区規模の延焼を防ぐためには,道路との接道関係に関わらず,地区内に存在する耐火性の低い建物を満遍なく不燃化・除却する必要がある。
高い減災効果が期待できる少数の建物を特定できれば,効果的に物的・人的被害を低減できる可能性がある
第5章まとめからの引用
点的事業では,建物単位での除却・建替えが,道路閉塞を解消し,人的被害の軽減に寄与することを確認した。
線的事業は,延焼の遮断帯や避難経路の確保という点で極めて重要であるが,整備途上における焼損被害低減効果は限定的である。延焼経路の要になるような建物を特定し,優先的に整備することで,より効果的な減災効果が期待できよう。また,街区規模の延焼を防ぐためには,道路との接道関係に関わらず,地区内に存在する耐火性の低い建物を満遍なく不燃化・除却する必要があることが示唆された。
面的事業は,両地区において高い減災効果を示すものの,地区ごとに異なる特徴を示した。面的事業の計画においては,どのような整備を行うと地区の防災性能を効果的に低減可能となるかを十分に検討することが重要である。
論文ではシナリオごとの要因別死亡者数がグラフ化されている
シナリオ1→シナリオ8にかけて段階的に死亡者数が減っており、想定される対策の重要性が理解できる
シナリオ1~8ともに「火災による死亡者(街路上)」が大半で、火災や延焼を防ぐと同時に、いかに避難路を確保できるかが重要かが良くわかる
木造住宅密集地域の耐震化や不燃化がいかに重要かはよく言われるが、自治体だけでなく、不動産の所有者による自発的な対策が欠かせない
耐震化や不燃化によって延焼を減らしたり避難路を妨げないことが、自分自身の命だけではなく、まわりの人々の命を救うことにもつながることは、もっと啓発する必要があると思う