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Vol.6 宇宙のロマンを見つけに、森の中の国立天文台(三鷹市)をいざ探索。

多摩地域東部に位置し、23区とも隣接している三鷹市。都心から程近いベッドタウンとして発展してきたこの街には、都立井の頭恩賜(おんし)公園や三鷹の森ジブリ美術館など、自然豊かな公園や文化施設が数多く点在しています。そんな三鷹市に日本の天文学の中枢、国立天文台三鷹キャンパスがあります。実はここ、地元の人や天文愛好家に人気のスポットなんです。まずは、その成り立ちとどんなことが行われているのかを探ってみましょう。

どうして最先端の天文研究施設が三鷹に?

天文学は人類最古の学問のひとつで、月の満ち欠けから暦を作ったことが起源と言われています。現在の天文学のミッションは、主に最先端の技術で天体を観測し、宇宙の謎の解明に挑むこと。そんな壮大なスケールの研究を日々行っている施設が、住宅街のそばにあるのは、少し意外ですよね。

重厚な雰囲気を漂わす立派な正門。近隣に杏林大学や国際基督教大学、JAXAの本部があるなど、三鷹市周辺は学術・研究機関が多い場所でもある。

そもそも国立天文台の前身となる東京天文台は港区麻布台にありました。それが三鷹に移転したのは1924年のことです。
「移転の理由は、施設が手狭になったのと、ガス灯が普及して街が明るくなり、麻布周辺が天体観測に適さなくなったためです。そこで候補に上がったのが、広大な土地が手頃に購入でき、街灯に影響されずに夜空の観測ができるこのエリア。当時の三鷹はまだ村で、畑の中にポツポツと集落があるだけの、のどかな場所でした」
そう教えてくれたのは、国立天文台天文情報センターの山岡 均さん。山岡さんによれば、敷地の南側を流れる野川に向かって地形が低くなり空が開け南の空が観測しやすかったことも、三鷹移転の決め手になったのでは、とのこと。

研究者と市民がお酒を片手に星や宇宙について語り合う「アストロノミー・パブ」の3代目店主を務めるなど、天文学が身近に感じられる活動にも熱心な山岡さん。幼い頃から星や宇宙に興味をもち、東京大学理学部天文学科に進学。九州大学で教鞭をとったのちに2016年より現職。

天文学の研究が発展するにつれて、高度で大規模な観測装置は観測条件の良い地方や国外に建設することが主流となり、時代とともに三鷹キャンパスの役割も変化していきます。現在ここで行われているのは、観測データの解析や新たな観測装置の開発・製作、そして天文計算用のスーパーコンピュータの運用がメインだそう。
「近年では世界各地にある望遠鏡のリモート観測が当たり前になっています。各地の観測装置の観測データは三鷹キャンパスに集められ、その検証・分析作業の最前線になっているというわけです」

現在国際協力で進行中のプロジェクトに、超大型望遠鏡「TMT」の開発がある。口径30mもの巨大な主鏡(すばる望遠鏡は口径8.2m)を用いることで、太陽系外の惑星も高解像度で観測できるのだとか。完成は2030年代中頃を予定。

国立天文台が運用している代表的な望遠鏡のひとつが、ハワイ島のマウナケア山頂域にある「すばる望遠鏡」。圧倒的な視野の広さで一度に多数の天体を高解像度で観測できるのが特徴です。さらに2010年には国際協力によって大型パラボラアンテナを66台も駆使して、130億光年以上も遠くにある天体などが放った電波をとらえることで天体を観測する「アルマ望遠鏡」をチリのアタカマ砂漠に設置。これらの巨大望遠鏡によってダークマター/ダークエネルギー(宇宙の成り立ちに関わるとされる暗黒物質)の撮像や生まれたばかりの星の観測などに成功しています。三鷹キャンパスで働く研究者のみなさんは、それらの貴重な観測データを解析・検証し、全世界に向けて研究成果を発表しているのだそうです。

100年の歴史を重ねた天文台は地域の憩いの場

こんな壮大な研究をおこなっている施設、それも国立の研究機関のそれとなれば、近寄りがたいイメージがあるもの。しかし、国立天文台三鷹キャンパスは毎日、一般向けに公開(10時〜17時、年末年始を除く)されており、26万平方メートルという広大な敷地内の一角に設けられた見学コースを散策しながら、国の登録有形文化財になっている歴史的な観測施設を間近に見ることができるんです。

こちらは1921年に建設された三鷹キャンパスで最も古い建物「第一赤道儀室」。赤道儀とは天体の日周運動を追いかける架台のことで、そこにレンズを使って光を集める屈折望遠鏡(1927年製!)と太陽を撮影するためのカメラ(1909年製!!)が設置されている。三鷹だけに佇まいに“ジブリ感”があるような。
山岡さんが立つのは1926年に建設された「大赤道儀室」。現在ここは天文台歴史館として使用されており、歴史的な観測装置や貴重な専門書の数々、国立天文台の歩みをまとめたパネルなどが展示されている。
「大赤道儀室」の館内に入ると口径65cmという日本最大の屈折望遠鏡がお出迎え。1929年に導入され1998年3月まで現役で研究観測を行っていたものなのだとか。ちなみに天井のドームは木製で、船底の製作技術を持っていた船大工の協力で作られたもの。

歴史的な建物や望遠鏡のほかにも、見学コース内には天文学関連の書物や資料が揃う図書館、国立天文台グッズが買える売店(ともに平日のみ利用可)などもあって見どころは盛りだくさん。また自然が豊かでタヌキなどの野生の動物たちがひょっこり顔を出したり、春には桜の名所にもなったりと、三鷹キャンパスは市民の憩いの場にもなっています。

広い敷地は緑に包まれ、その中に歴史的な建造物が点在している。正門を入ってすぐにある守衛室で入館手続きをすれば、自由に見学コースを散策できる。

そんな開かれた天文台として構内の一般公開がスタートしたのは、2000年のこと。「みなさんに天文学の歴史や最先端の研究・成果に親しんでほしいですから」と、山岡さんはその思いを語ります。
「今後もキャンパスの施設公開だけでなく、『今日の星空ライブ』などのYouTube配信や地域と連携したイベント『みたか太陽系ウォーク』といった活動を積極的に続けていきます。そうして天文学に興味がある人はもちろん、そうではなかった人たちにも、星空を見上げる楽しさや面白さを知ってもらいたいですね」

緑に囲まれたグラウンドに佇むドーム型の建物の中には、毎月2回の定例天体観望会などで使用される「50センチ公開望遠鏡」(TOP写真)が。肉眼の5000倍もの集光力で、東京の明るい空でも月のクレーターや土星の環がくっきり見えるのだとか。観望会の詳細やお申し込みは公式HPからどうぞ。

今年は国立天文台が三鷹に移って100年、さらにすばる望遠鏡の観測開始から25年の節目ということで、三鷹市内では周年記念の事業やイベントが多数催されています。「誰の頭上にも等しく天体が輝いているように、ここはどなたの来場も大歓迎です」と、山岡さん。国立天文台を目的地に“天文台のあるまち三鷹”を散策しながら、遠い宇宙のロマンに想いを馳せてみてはいかがでしょうか。

【Vol.7:10月後半公開予定】
次回は、奥多摩の伝統的な産業である林業と多摩産の木材の魅力に迫るべく〈東京チェンソーズ〉と〈檜原 森のおもちゃ美術館〉にスポットを当てます。お楽しみに!

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