「きみは知らない」チョン・イヒョン〜優しい色に包まれて〜
表紙を縁取る柔らかなピンク色がとても好きです。ページを捲るとサスペンス色の濃いストーリーで心臓の弱い私にはかなり刺激的でしたが、最後のページまで指が止まりませんでした。
ある一家の次女である11歳の女の子が突然姿を消すことから物語が進んでゆきます。その一家の姿が砂上の楼閣のようで、でもこんな家族たくさんいるよね、というリアリティを感じさせるのです。
読み進める途中で、私にとって家族ってなんだろう、自分の家族について何をどこまで知っているのだろう、と考えさせられました。私の母は「家族なんて言っても個人は個人。結局みんな一人なのよ。」と小さい頃からよく言っていました。この言葉を聞くたび、私はちくりと刺されるような気持ちになっていました。大好きな母に「あなたは他人」と言われているようで、辛かったのです。でも、やっぱり母には私たちが「家族」であることを感じてもらいたくて、あれこれと独り相撲をしながら生きてきました。しかし、大人になった今、振り返ってみても本当に母と分かり合えた、と思える時があまりありません。それが、子供として、家族の一員としての自分に欠陥があるようで、「温かく支え合う家族」の像に幻想を抱いていた私は後ろめたく思ってきました。でも、本書と訳者の橋本智保さんの言葉を読んで、その気持ちが救われるようでした。
これまでいくら「個人は個人」と言われても「いや、やっぱり家族だから……。」と必死に足掻いてきた自分。でも、孤独な個人でもいいんだ、私はただあの「ハウス」に生まれついたというだけなんだ、と素直に思いました。母は「家族の絆」に縋らなくても生きていけるように、人間がみんな一人だと私に分からせたかったのかもしれません。でも、無理にわかり合おうとしなくも、相手の本心が分からなくても、もう良いのです。一人の人間として、私は母に向き合えると思います。
人間の孤独を描くことで、それでも生きていく人間を肯定してくれるような温度を感じる作品に、出会えてよかったです。