太平記
タイトルがザ・皮肉「太平記」、鎌倉時代から室町時代への変わり目の戦乱の物語だ。
今日はさいとう・たかを著 マンガ日本の古典「太平記」を衝動買いして読んだのだった。
僕は講談師で、講談師の祖は太平記読み、つまり太平記を文字の読めない庶民に語って聞かせて金を貰って生活をしていた人、とも言われている。
つまり太平記は御先祖様の飯のタネ、ということになる。
太平記はどうも大げさに書く癖があるらしい。ということはさいとう・たかを氏も作中で触れていて20万人や30万人の軍勢がぶつかるのは当たり前。
一番酷い?のは楠木正成が1000人足らずの兵員で立てこもっている千早城に幕府軍100万人が攻め寄せたりするのだ(しかも楠木が勝つ)。
このイズムは講談師も引き受けているように思う。
先代玉秀斎の遺した立川文庫では三好清海入道という真田十勇士の豪傑が、50人の兵を率いて60倍に当たる3000人をほぼ全滅に追い込んだりする。
まあでも太平記の楠木正成は1000倍の敵に勝つのだから。比べたら随分かわいいものだ。立川文庫が随分リアルだ。
太平記。
後醍醐天皇の元に色んな公家や武将が集まって、時の幕府を滅ぼしていく前半は楽しい。楠木正成、新田義貞、足利尊氏などの英雄がドンドン出てきて協力体制を築いていくのは爽快だし、
名和長年(隠岐を脱出した後醍醐天皇を鳥取の船上山に迎えて150名の兵で3000以上の幕府軍を討ち破った田舎の悪党)、脇屋義助(新田義貞の弟で常に活躍するけどちょっと地味)文観(後醍醐天皇の側に居るなんだか下品そうな僧侶)など脇役も充実している。
「悪役」を引き受けている北条執権家・北条高時も、全然真面目じゃなくって遊んでばっかりいる。
また、この人のハマっている遊びが、闘犬、という犬の殺し合いをニヤニヤしながら見るというもので、それだけで「なんだかこの人殺されても仕方のないな」感を醸し出して、読んでいるほうに同情を全くさせない配慮がされている。
スターが集まって、悪役を倒していくスケールの大きな勧善懲悪が繰り広げられるのだからそれは面白いはずだ。爽快軽快に物語が進む。
ただ、中盤以降、足利尊氏VS後醍醐天皇の下りになってからは一気に物語が悲劇の度合いを増していく。
今まで協力していたものたちが二つに分かれてドンドン死んでいく。
またスターから死んで行き、新しいスターがあまり現れてこないものだから、段々と物語が色を失う感じがして妙に物悲しい。
新田義貞がなんだかくだらない感じで死んでしまうのは悲劇性が高いし、その後弟脇屋義助が粘り強く戦い続けるのも心動かされる。
そこから後は足利尊氏と弟の足利直義が揉めだしたり、足利尊氏の私生児で、足利直義が引きとって育てた足利直冬が出てきて反乱を起こしたり、と良くない大騒ぎになっていく。
中後編は前半の爽快さはどこへやら、ドロドロの権力闘争や骨肉の争いが描かれ続ける。
正直地味だけれど、読んでいて本当にやるせない気持ちになってくる。
さいとう・たかを版の漫画もこのあたりは結構省略していた。
僕が面白いと思ったポイントは
・少ない人数で大軍に手向かいをするテクニカルな部分
・身分の低い悪党が大活躍して大出世するところ
・栄華を極めた人間が落ちていって、どうしようもなくなる感じ
だろうか。
忠誠心、尊王、みたいな部分への気持ちの高ぶりを感じなかったのは講談師として致命傷なんだろうか。「ああん、たまらん」ってなったほうがよかったかしら。
まあでも平成生まれってことで目をつぶってほしいなあ、と思ったり。