空想お散歩紀行 夏の空、遠くに見える街
夏は続いているが、確実に過ぎ去っていく。
今年も、ただ青い空と緑に輝く田んぼと畑を見て、少年の夏は終わりに近づいていた。
彼が見つめる先にあるのは青い空ではない。
その下にある物だ。
そこには空を衝くように巨大な建造物があった。
まるで話に聞いたことのある、遠い異国にあるというピラミッドという建物のように、上に昇るほどに先が細くなっている三角形のそれは、少年が住んでいる土地よりずっと離れているというのに異様なほどの存在感がある。
おそらくすぐ近くで見たら、かえってその形を把握することはできないだろう。
正確にはそれは一つの建物ではない。無数の建物が集まって形作っている複合建造物だ。
前世紀に起こった、宇宙的天変地異。それによって、世界各国は「空間的に」分断された。
いまや、外国との行き来は限られた「ゲート」を使用することでしか行えない。
島国で、食糧や燃料を輸入に頼っているこの国ではそれは死活問題だった。
その対処法として行われたのが、人口の超極集中化と、国土のほとんどを農作地にすることだった。
今では人口のおよそ8割以上が、あのピラミッド状の建物がある首都に住んでいる。
決して広くない国土を有効活用するために、ああやって上へ上へと建物の増築が進んでいったのだ。あのピラミッドの中に住宅、商業施設から、政治を行う施設まで全てが詰め込まれている。噂では、増改築を進めまくったあの建物の中で遭難すると二度と出てこられないなんて話もあるほどだ。
そして、残りの2割ほどの人々が、首都以外の土地全てを使った農作地で食糧の生産に携わっている。
どちらの生活の方がいいのか、それは厳密には分からない。だが、少年にとっては、あのピラミッド状の首都に住んでいる人々こそが人間の生活をしていて、自分たちは彼らに仕える奴隷だと感じていた。
毎日やることが変わらない生活と、全てが刺激的で常に変化のある生活。太陽が昇ると同時に働き始め、沈むと同時に終わる土地と、決して眠ることのない街。
少年の目には、実際に首都の街が映っているのに、今自分がいる場所とそこでは、まるで空間が断裂しているかのように別の世界に見えていた。
いつかあの場所に行く。それが少年の、いや、農作地帯で生きている子供たちの共通の夢だった。
今年もその夢の場所を見ながら、夏が過ぎ去ろうとしていた。
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