空想お散歩紀行 それは世界を覆う悪魔
世界を救う。そのために戦う。それが夢だった。
そしてそれは叶った。今俺は戦いの場に向かっている。
窓一つない、分厚い金属に覆われた装甲車。
その中に作られた粗末な椅子に座って、他の仲間同様特に何かを話すわけでもなく、ただ揺られている。
今、どこを走っているのかは分からない。ただ目的地に近づいていることだけは分かる。
揺れがだんだんと収まっていく。スピードが落ちている証拠だ。
そして装甲車は完全に止まった。目的地についたのだ。
仲間たちと視線だけを合わせると、すぐに準備に取り掛かる。
装備の確認と取り付け。訓練で何度もやったが、今日は何かが違うように少し時間が掛かった。
念入りなチェック。外の空気を一切遮断する要塞のような装甲車同様に、俺たちの装備もまさに要塞のごとき分厚い鎧だ。
頭のてっぺんから足の先まで全てが覆われている。ものすごく重く、そして動きづらいが、これがこの先の戦いに臨む最低限の条件なのだ。
世界を救う戦い。俺が小さい頃から想像していたのは、世界征服を企む悪の秘密組織とか、世界を滅ぼそうとする宇宙人とか、超生物とか、そんなものを想像していた。
しかし、現実は常に想像の範囲外を人間に与えてくる。
装甲車から降りると、そこはまさに別世界だった。
一面が薄い黄色の世界。1メートルも先を見るのが困難だ。
この空気こそが人類の脅威であり、敵の武器。
それはある意味、どんな毒よりも強力な物質。
その正体は花粉。
世界のほぼすべてを覆う小さな小さな塊の群れ。これを少しでも吸い込んだならば、強力なアレルギー反応で死に至る確率が極めて高い。
そのため今や人類は地上に住むことはできず、地下での生活を強いられている。
これから俺たちが向かうのは、この花粉をまき散らしている木の所だ。
文字通り倒しに行く。その数は無数にあり、装備の耐久時間も考慮に入れると、今日倒せるのも数本程度だろう。
これを繰り返していくのだ。俺の父も祖父も、その前の世代もこれを繰り返してきた。
もしかしたら少しは世界は平和に近づいているのかもしれないが、その様子は今のところ見えない。
世界を救う戦いとは意外なほどに単純な作業なのだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?