空想お散歩紀行 クラブ系ゴースト
その娘は毎晩来ていた。
歓楽街。ゲームセンターや映画館といったアミューズ系施設や居酒屋やバーといった飲み屋がそこかしこにある街で、ここは至って普通のクラブだった。
別段超人気店でもなければ、潰れるほどでもない、毎晩それなりに若い人たちが集まる並みの店だ。
そこで働く私は、いつの間にかその娘を知っていた。
私と同じ年くらいの女の子だからだろうか。
とにかくその娘は一晩中音と光が止まないこの空間で、まるで疲れというものを知らないかのように楽しそうに振る舞っている。
でも一つだけ気になっていたことがあった。
彼女はいつも一人だった。
だれか友だちや彼氏のような人と来たことは一度もない。
毎日一人で来る女の子。
妙な興味が湧いた私は、ついにその娘に声を掛けてみることにした。
クラブに設置されているバーカウンターに近づいてきた時に、それとなく挨拶をしてみた。
ただそれだけなのに、彼女のほうはめちゃくちゃ驚いたリアクションをしてきた。
それが私たちの出会いだった。
彼女が驚いたのには理由があった。
それは、彼女はもうこの世にはいない、いわゆる幽霊だということ。
その話を聞いた私はまず最初に彼女の足元を見た。
普通にブーツを履いていた。しかも結構いいやつだ。
酔っているのか、それともそういう冗談が好きなのか。出会った初めての夜は話を合わせてあげたつもりだった。
何でも、彼女が死んだのは3ヵ月前。このクラブにゲストとして、とある海外の女性DJが来ることがあった。そのDJのファンだった彼女はその日、ここに来る途中事故に遭って死んだ。
でも、楽しみだったその想いは強い念となり、あの世へ行くのを拒んで、このクラブへとやってきた。それからここの地縛霊になったのだと。
地縛霊と聞くと、未練を残して苦しんでいるお化けのイメージがあるが、まあよくこんな話を作るもんだと、その時は思った。
でも、翌日店長から、昨晩仕事中に独り言を喋っていたと心配された私は、その瞬間マジであることを直感した。
その日も彼女は現れた。当然一人で。当たり前だ、私にしか見えていないんだから。
今夜も音楽にノリにノッて、その身体をリズムに預けている姿はとてもじゃないけどお化けには見えない。
とにかく、私とこの陽気な地縛霊の激しいライトとミュージックの中での付き合いは今夜も繰り広げられていく。
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