空想お散歩紀行 冒険の後始末
冒険者とは常に未知の最前線に立ち、未踏を切り開く、その心のことを言う。どんなに体力、腕力、頭脳があったところでその心が無ければ意味がない。
だが、一度鍛えた体は中々衰えることは無いかもしれないが、心は一瞬で折れることもある。
彼、元冒険者のリッキーもそんな男だった。
冒険に対する興味が萎えた彼は、一線から身を引いた。
しかしだからと言って何もしなければ生きていくことはできない。
彼のように冒険者としては引退したが、冒険者として培ってきた力や経験を活かした仕事に就く者は多い。
各々が決めたエリア限定の用心棒。冒険者たちへ武器や魔法、経験から得た知識を講座を開いて教える。行方不明になった冒険者の捜索等々。
そしてリッキーが行っているのが、
「え~と、たぶんこの辺に・・・っと、あったあった」
彼が草むらをかき分けて見つけた物は、何やら丸められてグシャグシャになった布の塊のような物であった。
「どうせ捨てるんならもう少し分かりやすいとこに捨てろよな」
彼が今やっている仕事。それは冒険者たちが捨てていったゴミの回収である。
冒険に荷物は付き物だ。武器防具、各種アイテム、食糧に水に薬。
だが、基本冒険者は荷物が重くなるのを嫌う。
その分体力を消耗するし、魔物との戦闘でも邪魔になる。
だから冒険に持って行く荷物は厳選し、可能であれば現地で調達し、もういらなくなった物は捨てていく。
その捨てていった物をリッキーのような回収屋が集めるのだ。
何せ冒険者が捨てたゴミを集めるということは、少なくとも冒険者たちが行く場所に足を運べるだけの実力が無いとできない。
ある程度魔物と戦う力は必須になる。護衛を雇っている回収屋もいるが、回収屋自身が戦えた方が効率がいい。
「テントがここにあるってことは、ポーション系の瓶は無さそうだな」
彼が拾ったのは冒険者が使った野営で使ったテントだ。
テントならまた使えるから捨てる必要は無いのではないかと思うがそうではない。
冒険者が使うテントとはコンパクトにまとまった魔法製の品のことだ。その魔法力で一晩寝れば体力と魔力が全回復する。
町の宿屋などはこの魔術の魔法陣が張られているが、携帯可能なテントは一度限りの消耗品だ。だから今捨てられている物は単なる布の塊でしかない。
他にも冒険者が捨てる物と言えば、ポーションの空き瓶が最も多い。昔は液体であるポーションを入れるのに植物性の器が使われることも多かった。そういう物は捨てたとしても自然に還るが、最近はガラス瓶がほとんだから回収する必要がある。
冒険者が捨てていったゴミを回収する理由はいくつかあるが、少なくとも自然を大切にとかいうのはどちらかという低い。
冒険者が捨てていったアイテムをある程度知能のある魔物が悪用するのを防ぐためだったり、盗賊や山賊などが拾って売ったり、詐欺に使ったりで彼らの資金源になることを防いだりする目的がある。
「さて、今日はあっちの地下洞窟の方にも行ってみるか、昨日いくつかパーティが潜ったみたいだったし」
回収屋が集めるのはゴミだけとは限らない。時々、探索の途中で倒れた冒険者を復活の教会まで運ぶこともある。
「人は落ちてないでくれよ。持ち帰るの大変なんだから」
まだ未知が広がる世界を解き明かす勇敢な冒険者たちの陰には、一歩引いた所にいろいろと世話を焼く人間たちが大勢日々頑張っているのである。
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