空想お散歩紀行 それは最初からここに
どこかに自分の心を満たしてくれる景色があるはずだ。
男は愛用のカメラを一つ持って旅に出た。
広大な草原、雄大な山脈、見る者を圧倒する景色を見つけては写真に収めてきた。
初めて見る景色に何度も出会ってきた。でも、彼の心はどこか満たされない。
きっとさらなるどこかに、さらなる感動があるはずだと信じて度を続けた。
究極の場所だという情報を手に入れたら、可能な限り空に近い所にも行ったし、可能な限り海の底にも行った。
確かにそれらの景色は、人間の想像を遥かに超えた迫力と神秘を誇っていた。
その景色に出会えた時、彼の心は確かに満足を覚えた。ここが自分が求めていた景色の場所だと。
しかし、その感動は一瞬だった。もうこれ以上は無いと思ったはずの心は、すぐに次の景色を求めだした。まるでそれは、砂漠に水を垂らしたかのようだった。
そして彼は文字通り世界の隅々まで、その足で踏んでしまった。それでも彼はついに自分を満たすことはできなかった。
失意と無念が形となった体で彼は家へと帰った。
もうどれくらいぶりか思い出せないくらい、久しぶりの我が家。旅に出た時と変わらない姿でそこにあったそれを見たら、何とはなしに自然とシャッターを切っていた。
そして今、彼のくつろぐリビングの壁の一番いい場所に、その写真が飾られていた。
彼はついに夢見た場所に辿り着いたのだ。
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