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空想お散歩紀行 宴会の前に

春は鳥が歌い、花が咲き乱れる季節である。
暖かな日差しの元、宴会を開きたくなるのは古今東西変わらない。
今日も何人もの男女が、とある丘の上に集まっていた。
だが、彼らの表情はただこれからの時間を楽しもうという気が緩んだものではなかった。
楽しもうという感情に変わりはないだろうが、それは獲物を狩る人間の楽しさの類だった。
その通り、彼らがこれから行うのは狩りだ。
手に手にしているのは、身の丈ほどの大剣、巨大な刃のついた槍斧、何やら怪しげな色を発する矢尻の弓矢。
各々が得意とする武器を持ち、待ち構えるのは自分たちよりも遥かに巨大な相手。
それは今、空を飛んでいた。
この時期、渡り鳥のように季節によって活動する地域を変える竜がいる。
その渡り竜は、ピンク色の鱗で全身を覆い、生半可な攻撃では傷一つ付けることはできない。
ほとんどの渡り竜は、遥か上空をただ通過していくだけだが、中には腹を空かせた竜が地上に降りてきて、動物や、時に人に危害を加えるときがある。
狩人の彼らがいる場所は、今までの統計的に渡り竜が降りやすい場所だった。
今、一頭の竜が地上目掛けて高速で向かってくる。どうやら彼らをエサとして認識したようだ。
だが、それは間違っている。
宴会に豪勢な食事は欠かせない。ピンク色の鱗を持つその竜の肉は、美しい桜色で、市場でわずかな量でも高値で取引されるほどだ。
色鮮やかな花の下での宴会。そこでの皿の上に乗ることになる肉。
狩人たちは全身に緊張を行き渡らせる。相手は竜だ、楽勝とは決していかない。
だが、これもまた宴会の前座として、この後飲む酒をさらに旨くする準備として、彼らはそれぞれの武器を構えた。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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