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空想お散歩紀行 希少で凶悪な石

リオンの街には、世界の各所から商人たちが集まる商売の聖地とも言える場所だ。
ここに無い物は無いとまで言われるほど、高級品から日用雑貨まであらゆる物が揃っている。
一人の男がとある店先で商品を手に取り、品定めをしていた。
「うーむ、これはなかなか、いや、何とも不思議な・・・」
男は独り言をブツブツと言いながら、手に持った物を頭上にかざして仰ぎ見たり、または眼球に触れそうなぐらいに近づけて見たりしている。
男が見ている物は石だった。
「こんな石は今まで見たことが無い。ダイヤとも違うし、ルビーとも違う。だが、それらに劣らぬ色と輝きを持っている。しかも何と言うか、悪魔的な形状が美しさを引き立てている。ご主人、これらを一体どこで手に入れた」
男は興味津々で店の主人に尋ねる。店先には同じような石がいくつも陳列していた。そのどれもが、一つとして同じ形をしていない。
「それは言えませんね旦那。うちの企業秘密ってやつですよ。まあ、これほどの石は他のどこにも売ってはいないだろうことは確かですがね」
店の主人の言い分は決して誇張ではないと、客の男は確信していた。男はこれまで世界中を周り、希少な品物をいくつも買ってきたコレクターだからだ。
その日、男はこの珍しい石を10個も買って、上機嫌で店を出ていった。
翌日、店の主人は街から離れた場所に来ていた。今日は商品の仕入れの日である。
彼が辿り着いた場所は、自然豊かな場所であった。街どころか、小さな村さえない。
とてもではないが、商品の取引ができるような所ではなかった。
それでも彼はお構いなしに進んで行く。そして目の前に小さな岩山が現れたら、彼はその岩肌にそって歩くと、やがて一ヶ所だけ岩が無い場所に着いた。
そこは穴が開いていて、奥に進めるようになっている。彼しか知らない秘密の入口だ。
「おーい!来たぞー!」
彼は穴の入り口から大きな声で奥の闇へ向かって叫んだ。
「おー、来たか。じゃあよろしく頼むよ」
穴の奥から声のようなものが聞こえてきたのを確認すると彼は、ランタンを灯し穴の中へと入っていった。
しばらく奥へと進んで行くと、そこにはあの不思議な色の石が壁のいろいろな所に、まるで生えているかのようにあった。
「これはまた、随分と育てたな」
彼が苦笑いを浮かべると、またどこからともなく声が聞こえてきた。
「お前さんのおかげで、助かってるよ。さあ早いとこやっておくれ」
それは岩の洞窟そのものがしゃべっているかのようだった。
実は男が入ってきたのは洞窟ではない。
ここはロックドラゴンという生物の体内なのだ。
体のほとんどが鉱石などの無機物で構成されている生物である。
ここで男は商品でもある石を採取していた。
それは、ロックドラゴンにとっては悪性の石だった。
人間で例えると、いわゆる胆石や結石である。
彼はその石を採って商売をする、ロックドラゴンは体の中の悪い石を取ってもらうという、持ちつ持たれつの関係だった。
「それにしても、わしの中の石を欲しがるやつがいるとは、変わった人間もいるもんだなあ」
男はつるはしを使って、慎重にドラゴンの石を砕いていく。
「数が少なくて、綺麗なもんなら欲しがるのが人間ってもんさ。まあ、ドラゴンの体ん中の石ってのは秘密にしてるがね」
男が採取した石は、綺麗な色をしているがトゲがいくつも突き出た凶悪な形をしていた。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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