空想お散歩紀行 クラウドファンディング国家
世界は多様化を極めていた。
あらゆる生き方、あらゆる生き様が受け入れられ、一人一人が自分の進みたい道へと進んで行く。
それは一見するとあらゆる選択肢が許される自由な世界のように見えるが、どんなものにも光が当たれば、影もできる。
今までの世界は、生まれた社会によって、ある程度進む方向は定められていた。文化や風習、常識や定番が必ず誰が生まれた場所にもあった。
言ってみれば、それは羅針盤がちゃんと存在する船のようなもの。
しかし、現代は違う。あらゆる選択肢が許された世界。それは、見方を変えれば、進む進路を指すものもなく、ただ波と潮の流れに任せる船の破片のような世界なのかもしれない。
もはや人々の中に国という観念はなく、また頼るものでもなくなっていた。
しかしそれでも人は仲間を家族を作り、集まりたいという本能まで捨てることはできない。
だから自分たちに合った国まで作るようになった。
その先頭に立つのは主に言葉が巧みな者たちだった。
スピーチ力のある政治家や言葉の力で支持を得るインフルエンサーなどが、それぞれの国を作り始める。
金が無くとも、クラウドファンディングで募ることで、その国に属したい者たちが資金を出す。資金を出すことで自分もその国の一員なのだと団結力を強めていく。
世界中で今までの数百倍の数の国が出来上がっていった。
十数人程度の極小国家から、100万単位の国民が属する大国家まで(クラウドファンディング国家が乱立する世界では100万以上の人口はかなり大きな部類と言える)
が各地にごった返していた。
現代は、産まれた場所が自分の国になるのではなく、自分が選んだ国が自分の故郷になる、そんな時代だ。
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