空想お散歩紀行 槍と盾の信頼関係
これと言って特徴の無い普通のオフィスの一部屋で二人の男女が向かい合っていた。
相当のキャリアを積んできたであろうという雰囲気がその見た目から分かる、40代くらいの女性が座るデスクの前に、20代後半くらいの屈強な男が立っている。
「今回の任務は既に聞いているだろうけど、リッチー・モンド氏の護衛よ。彼は数々の差別や格差を解消した政治家として、民衆からの信頼が厚い。今日は、彼が支援者たちの前で演説をするわけだけど、一つ良くない話が流れてきた―――」
主張の強い置物がそこかしこに置いてある部屋で二人の男女が向かい合っていた。
相当の修羅場をくぐり抜けてきたであろうという雰囲気がその風貌か見て取れる。顔にいくつもの傷を持った60代くらいの男が座るデスクの前に、20代前半くらいの整った顔立ちの女が立っている。
「今回の任務は既に聞いているだろう。あのリッチー・モンドの暗殺だ。やつは数々の差別や格差を作り出したとして、多くの人間から恨まれている。今日は、やつが支援者たちの前で演説をするわけだが、どこからから情報が漏れたらしい―――」
「あの悪名高い暗殺者、『グングニル』がモンド氏の暗殺を企てているというらしいわ。
そこで呼ばれたのがあなたというわけ」
「お前が現れるという情報を受けて、かの若き伝説の護衛『アイアス』がモンドに付くらしい」
「あなたはこれまで、何人もの要人を暗殺者やテロリストから護ってきた。ほぼ100%の確率で。あなたなら、あのグングニルから対象を護ることはできる?」
ここまで話を聞いていただけの男が初めて口を開いた。
「護れる確率は―――」
「お前はこれまで、何人もの要人をその警備を潜り暗殺してきた。ほぼ100%の確率で。あのアイアスを突破することはできるか?」
ここまで話を聞いていただけの女が初めて口を開いた。
「殺せる確率は―――」
『50%』
「・・・それでは困るのよ。彼の死は今後の政治にとって大きな傷になる。決して失敗は許されないのよ」
「お言葉ですが、彼女を甘く見ないほうがいい」
「・・・それでは困るのだよ。やつが生きるということは、それだけ世界の損失が大きいということだ。決して失敗は許されないのだよ」
「お言葉ですが、彼を甘く見ないほうがいい」
「私は最善を尽くす。だがそれでも、彼女は私という盾を突き抜けるでしょう」
「私は全力を尽くす。だけど、彼は私という槍を受け止めるでしょうね」
過去、何度も二人は出会っている。そしてその結果は完全に引き分けていた。それ以外の現場では二人とも自分の仕事を完全に成功させている。
だが、お互いが対峙した場合だけは話が変わる。
『楽しみだ』
二人は自分のクライアントに聞こえないように静かに呟いた。
敵対する二人、今まで一度も言葉を交わしたことない二人ではあるが、そこには信頼とでも言うのか、確かな絆があった。
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