空想お散歩紀行 ウラシマバケーション
休暇はだれもが欲しいものである。
何日も、何週間前からも楽しみにして、何をしようか、どこへ行こうかと頭の中では既に休暇を迎えている。
そんなふうに恋焦がれ、待ち焦がれた休暇であるが、実際に訪れると、何と言うことか、その期間だけ世界の理が変わってしまったかのように時間が駆け足で通り過ぎていく。
あれだけ予定を立てていたことが、半分も実行できずに休暇が終わってしまう。
休暇が始まる前のワクワクよりも、終わった後の後悔の方が大きい。そんなことは珍しくない。
だからこそ、いかに休暇を過ごすかは多くの人間にとって大きな命題だった。
「今年の休暇はどこに行く?」
とある国の、何でもない普通の人が友人に尋ねた。
友人は答えた、
「そりゃ、『上』っしょ」
彼が答えた「上」というのは、海の上のことである。
ここは海底にある国、リュウグウ。
最近とある休暇の過ごし方がこの国では大ブームになっていた。
地上に行くことがそれなのだが、これまでは地上に行こうなんて考える者はいなかった。
なぜなら海の中の方が広いし、美しいし、遊ぶ場所もいくらでもある。
ではなぜ地上ブームが訪れたか。それは一人の地上人の存在があった。
その男は、ある日ふらりとこの国にやってきた。何でもこの国の誰かを助けたとかで、お礼に招かれたとのことだ。
その男は数日間リュウグウで遊んだあと地上に戻ると、何と地上ではここで過ごした時間よりもずっと長い時間が経過していたという。
そこでリュウグウの人々は思った。
と言うことは、地上で長く過ごしても、この国ではさほど時間が経っていないということになる。
そういうわけで、休暇を地上で過ごすリュウグウの人々が一気に増加したのだ。
休暇を少しでも長く味わいたい気持ちが地上へ足を向かわせ、休暇シーズンには人口の大半がリュウグウからいなくなるとのことだ。
この休暇ライフハック術はウラシマ・バケーションと呼ばれている。
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