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空想お散歩紀行 人は見た目ではない

かつて海を越えて別の大陸に行くことは、大いなる冒険であり、それを達成するということは文字通り世界が広がり、別の世界との交流からの発展を意味した。
それは時代の流れと共に、陸から海へ、そして空へと移り、今は星の外にまで広がっている。
知的生命体が住む惑星は数えきれないほど、遥か昔からあった。だが、互いに交流する術が無かったためにそれぞれの星は自分たちと同等もしくはそれ以上の存在がいるとは、想像の域の話でしかなかった。
しかし今は違う。多くの星が技術の発達と共に様々な星に足を運び、そこで新たなな知識や文化を手に入れている。
私もこの度、とある星の始めて訪れた。
「個性的ですね」
あらかじめ聞いてはいたが、その星の人々を見て月並みな感想が思わずもれてしまった。
「確かに初めて訪れる人は皆そう言いますよ」
私と一緒に歩いているコーディネーターは私のようなお決まりの感想に対して、おそらく何千回もこの答えを返してきたのだろう。
このコーディネーターはこの星の出身の人だ。
声からしておそらく女性である。
なぜ声から判断したかというと、見た目では判断できないからだ。なぜなら、
「それは、この星の動物ですか?」
「はい、そうですよ」
彼女は頭のてっぺんから足の先まで、いわゆる着ぐるみを着ていたからだ。
ピンク色をしたその着ぐるみは、耳が長く、大きな目をしたこの星の動物を模したものらしい。
彼女だけではない。この星の住民は全て何かしらの着ぐるみを着ていた。
着ぐるみを着ていないのは、他の星からやってきた人々だとすぐに判別がつく。
彼女は私の隣を同じスピードで付いてくる。着ぐるみなのに平然と動くその姿から、慣れていることが分かる。
「この星の人々が皆着ぐるみで生活しているのは、平等のためと聞きましたが」
事前の勉強で知っていたが、とりあえず現地の人の生の声が聞きたかった。
「ええ、その通りです。この星ではかつて、見た目が大きな価値を占めていました。美しい者が良しとされ、そうでないものは価値が低いと」
それは私の生まれ故郷でも同じだ。いや、宇宙中の星で、それは極めて普通だろう。
「しかし、人は見た目ではない。中身こそが大事だ。見た目で人の優劣を付けるのは良くないと多くの人が思ったのです」
「それで、皆着ぐるみを着ていると」
「はい。これなら大体皆同じ見た目になるので、外見による差別がなくなるのです」
「しかし、ずっと着ぐるみでは私生活が大変なのでは?」
「まだ、この習慣ができたばかりの頃はそうみたいでしたが、今は我々のスーツの性能も上がっています。これを着たまま、食事や睡眠、さらには生殖行為も可能なのです」
「つまり、一生自分や相手の素顔を見せあうことなく生きていけると?」
「はい。素晴らしいでしょう?見た目などというものに掛ける人生の時間がなくなったことで、他のより大切なことに力を割くことができたのでこの星はより発展したのです」
彼女と歩いている途中、いくつかの看板を見た。それはスポーツの世界大会を示すものだったが、この星ではスポーツも着ぐるみを着たまま行っているようだ。
私はそれを見て、もし着ぐるみを着ていなかったら、生身の肉体で勝負できていたら、もっと素晴らしいパフォーマンスを発揮できているのではないかと思った。
頭の良さや運動神経に才能があるように、ルックスだって才能というものはある。
そして才能があるからこそ、それを伸ばしたり、もしくは才能ある者に抗おうと努力をするところに意味があると思う。
なのにこの星は、見た目という点だけ、それを否定してしまっている。
だがここで、彼女と人の外見というものについて議論をするつもりはない。ただ一言、
「本当に地球は個性的な星ですね」
改めてその言葉が自然と口から出てきていた。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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