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空想お散歩紀行 雨の車窓から

窓から見える景色は、山と森の木々から白い岩が目立つ海岸線へと変わっていた。
旅客鉄道サンアンドムーン。
旅人用の個室や各種施設を取り揃えた大型列車は、世界中に敷かれたレールの上を今日も走っている。
その名とは裏腹にここ一週間ほどはずっと雨が続いている。どうやら雨雲と一緒に同じ方向に移動しているようだ。
一人の旅人が窓の外を眺めている。木々の緑から海の青へと景色が変わるかと思いきや、現在見えるのは灰色に覆われた空と黒ずんだ海。そして窓の表面から消えることのない雨水ばかりであった。
窓の外から室内へと視線を移すと、天井から吊るされた、いくつもの洗濯ばさみが付いたハンガーが5個ほど目に入ってくる。
晴れた日ならば、この列車の洗濯スペースに干しておけば、走る際の風を受けてすぐに乾くのだが、この連日の雨で洗濯スペースは閉鎖されている。
おかげで今、個室内には洗濯物の森ができあがっているというわけだ。
旅人がこの個室を借りて一ヶ月ほど経つが、こうまで洗濯物が溜まったのは初めてであった。なんだか不思議な非日常感を感じていた。窓のガラスに打ち付けられる雨の音が時折大きくなり、一人部屋の中にいる旅人にとって世界の音が全てその一つになる。
そんなことはお構いなしに洗濯物は列車の動きに合わせて、静かに揺れていた。
空はまだ灰色一色。雲の隙間さえ見つけることはできない。まだまだこれから数日は洗濯物の森はその領土を広げていきそうだ。

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