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空想お散歩紀行 その称号は、勝者の証

その日は、前日までとは違う、特別な雰囲気に会場は包まれていた。
なぜならば、その日は決勝戦だったからだ。
会場の中央に作られた土と石の舞台。
ただの土と石ではない。神職の者たちが7日7晩交代で休むことなく祈祷を捧げ、清められた物が使われている。
さらに舞台の4隅に立っている柱を注連縄が囲い、その舞台をより一層、俗界から隔絶された神域であることを強調している。
舞台の周りの階段状に設置された観客席から今か今かと固唾をのんで見守っている大勢の人々が、まだ誰もいない舞台を見つめていた。
そして、その時は唐突に訪れた。会場の東と西に設けられた門が静かに開き、それぞれから誰かが入場してくる。
それは二人の少女だった。
片方は長い黒髪を腰の辺りまで落とし、まるで流れ落ちる水のような艶やかな美しさを放っていた。
もう一方は肩口で短く切り揃えられた黒髪の少女で、ところどころ跳ねるように飛び出すその髪はまるで爆ぜる火のような勢いを感じさせた。
水と火、静と動、相反するような雰囲気を醸し出している二人だが、着ている装束は似たような物だった。
白を基調とした巫女装束。神に近いことを示す神聖な着物。ただ短い髪の方の巫女は、腕周りや足回りの布が短く、動きやすい作りになっていた。
二人の巫女が舞台に上がり、その中央で対峙する。
これから始まるのは、一つの称号を懸けた戦い。
普通の人間とは隔絶した神力を持ち、神の声を聞き、巫女として人々を導く役目を負った女たちがいた。その女たちはそれぞれの土地の指導者として、民の期待と尊敬を背負っている。
その巫女たちの中で、最も能力に優れ、最も神に近い者を決めるのがこの大会だった。
24名の参加者から始まった大会は、普通の人の目には超常現象としか呼べない戦いが連日繰り広げられ。一つ一つの戦いが後の世まで伝説として語り継がれるほどのものだった。
そして、最終日。最後まで残った二人の巫女による決勝戦が今から行われる。
長い黒髪の巫女は、その神力で何種類もの霊獣を使役し戦う。もう一方の巫女は神力で自分の身体能力を上げ、体術一本でここまで上り詰めてきた。
戦いの型も全く違う二人。観客たちも、どちらが勝つのか、その予想は綺麗に二つに分かれていた。
生まれも育ちも二人は違う。片方は今の日本で言うところの九州地方の出身。もう片方は近畿地方の出身である。
この戦いで二人のどちらかが、現代神とも言える称号『卑弥呼』を得ることになる。
どちらが勝ち、どちらが負けても、歴史が大きく変わる戦い。卑弥呼決定戦。
その開始を告げる鐘の音が会場中に響き渡った。

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