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空想お散歩紀行 旅の目的

夜になると、むしろ昼間よりも賑やかになっている気がする。
目の前の焚火の薪がはぜる音。周りの草むらからは虫たちが鳴く声が聞こえてくる。
村を出発して早一ヶ月。今日まで、誰にも会うことはなかった。
村の伝承通り、もう世界には他に人がいないのだろうか。
いや、そうとは思えない。今日私は見たのだ。
今、私の目の前にそびえ立つ古代の物と思われる遺跡。
夜だから、ただ真っ黒に染められて、巨大な壁にしか見えないけれど、昼間に私はここで動く物体を見たのだ。
大きな、人が何人も入れるくらいの箱が、太いロープのようなものに吊られて、遺跡の外壁を沿うように動いていた。
4つほど連結して移動していた箱の姿から、昔に村の古文書で見た、列車と呼ばれる乗り物だと思う。
下から見る限りでは、箱の中に人がいるようには見えなかった。
もし人が乗っていなかったとしても、この遺跡には人がいた形跡がある可能性が高い。
明日はさっそくこの遺跡を調べてみよう。
実を言うと、生まれ育った村以外に、もう世界に人がいようといまいと大して興味はない。
だが、見たいのだ。
村の外の世界がどれだけ広いのか。世界には何があるのか。ただそれだけだ。
明日、この遺跡の中で何も見つけられなくても、また旅を続けるだけだ。
もし何かを見つけたとしても、また旅を続けるだけだ。
だって世界はきっとまだまだ広いから。知らないことがまだまだあるはずだから。

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