空想お散歩紀行 仕事は戦いの後から始まる
窓から外を眺める。
目の前に広がるのは背の高い建物たち。
マンションやビル群の間に辛うじてずっと向こうの山が薄っすらと見える。
そして自分の目線も地面からはずっと高い。
高層マンション42階、そこが私の住処だ。
高い所に住むのは、成功者かバカのどちらかと相場が決まっている、と昔は言っていたらしい。
今の時代、高い所、正確にはこんな高層建築が立ち並ぶような街に住むのはバカだとはっきり言えるだろう。
私の仕事は建築家だと自称しているが、周りは救急建築修復師なんて呼んでいる。
確かにその名の通りの仕事ばかりしているから仕方ないかもしれない。
この部屋から見えるビルやらマンションやら、はっきり言って美しい外見とは言えない。
壁は場所によって材質も色もバラバラで、統一感というものはまるで感じられない。不自然な増築で形も歪である。
例えるなら、つぎはぎだらけのフランケンシュタインだ。
まさにフランケンだ。なぜならこれらの建物は生きているとは言えないのだから。
ここはかつて都会と呼ばれ、溢れんばかりの人たちがいた。マンションはどれも高額で、それでも大勢の人が住みたがり、高い階層に住む程すごいとされていた。
だけど今は違う。こんなマンションに、いや都会に住もうなんて人間はほとんどいない。
理由は簡単だ。危ないから。
もう10年以上前から、この世界では一つのことが起こるようになった。
巨大怪獣と巨人の出現だ。
怪獣の方はいろいろなタイプの見た目があり、一目見ただけで狂暴と分かる。
一方巨人の方は見た目だけなら人間に近い。怪獣に比べればまだ理性のようなものを感じるが、正直言って私にとってはどっちもどっちだ。
どちらかが正義でどちらかが悪なのかもしれないが、分かっていることはこいつらはどこからともなく現れて、そして周りの建物などお構いなしに戦って、壊しまくっていくことだ。
しかもどういうわけか、都会のように高い建物がある場所にしか出現しない。
だから私のような仕事をする人間が必要になる。
怪獣と巨人が壊した建物をできる限り早く修復する。見た目とか強度とかよりもスピード優先。なぜならどうせまた近いうちに壊れるから。
張りぼての都会を維持することで、怪獣と巨人の戦う地域を限定しているというわけだ。
そして仕事のために私はなるべく近くに住んでいる。
いざとなったら命が危ない仕事だ。だから政府から直接金はたんまり入るし、今住んでいる部屋もただ当然である。
怪獣と巨人が現れる前は、きっと月々の家賃だけでとんでもない額だったろうに。
私の他にもこんな都会に住んでいるのは、よほど金のないやつか、よほどの物好きしかいない。
その時部屋の中でアラーム音が鳴り響く。
それを聞くと体が条件反射的に動き出した。
このアラームは、空間だか次元だか何だかの振動やら波長やらを読み取って鳴る仕組みらしい。
要するにこれが鳴ると、怪獣と巨人が現れるということだ。
急いで地下のシェルターに向かう。
そしてほんの十数分後には私の仕事が始まるのだ。
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