空想お散歩紀行 スキマカウンセリング
隙間産業という言葉がある。
世の中は実に多くの組織があって、それぞれがそれぞれに商品やらサービスやらを作り、それを求める人たちに提供している。
しかし、世の中は想像以上に広くて、どれだけ多くの組織がその手を広げようともカバーしきれない場所が必ず出てくる。
その空白地帯に目を付けた商売が隙間産業だ。
世間一般の認知度は高いわけではない。だから顧客が多いわけではないが、しかし確実にそれを求める客が存在するので、逆に競争激しい業界よりも長く生き延びることが多い。
そんな世界の隙間に彼女はいた。
それは物理的にも、そのままの意味で。
街の中にある商業ビルが立ち並ぶ一角。表通りは昼はサラリーマンから主婦、学生等々多種な人たちが行き交っている。
その表通りから、ビルの間の道を入ると途端に別世界のようになる。
と言っても、そのビルとビルの隙間を道と思う人間などまずいない。その先に何があるかなんてまず興味など湧かないし、それ以前に気付くことすらないだろう。
だが、だからこそいいのだ。その隙間を進んだ奥にある小さなスペースには家があった。
家と言うよりも小屋に近いそれは、一体いつからそこにあるのか全く分からない。
古いのは確かだが、それにしてはしっかりしていて、むしろ時代の貫禄みたいなものさえ感じられた。
その家の中には女性がいた。人間の女性である。
そして、室内に置かれた簡単なテーブルと椅子。テーブルを挟んで彼女の前に座っているのは、人のように見えるが、どこか不思議な雰囲気をまとっていた。
白い着物のような物を着ているように見えるが、そもそもそれも定かではなく感じる。椅子に座っているはずなのに、重力を感じないというか、とにかく「そこにいる」という感覚が朧気なのだ。
ただ彼女は、そんな相手に対して普通に会話をしている。会話と言っても、相手の話を聞くのがほとんどで、時折自分の意見を言っているといった感じだ。
彼女はいわゆるカウンセラーだった。
悩みを聞き、相手を少しでもいい方に導くのが役目だ。
では、その相手というのは、実は人間ではない。
神様である。
この国には実に多くの神様がいる。ありとあらゆる所に。
そして神様たちは日々、人間に寄り添い、その願いを聞いている。
だが、神様とて万能ではない。力には限界がある。それでも人間のために活動している神様は数多くいる。
するとどうなるか。人々を助けることに疲れてしまう神様も多くなってしまうのだ。
それに対応しているのが、神様専門カウンセラーの彼女である。
神様が人間である彼女の元に通うのには理由がある。
同じ神様同士で悩みを相談し合っても解決しないからだ。
魚同士で水の外の世界を考えても答えが出ないように、神様同士で人間のことについての悩みの解決はなかなか難しいところがあるのだ。
そこで、彼女の出番となる。
今日も、人は立ち入らない隙間で彼女の仕事は続く。普通の人は誰知らない彼女の仕事は、明日も明後日も、予約が満杯である。
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