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空想お散歩紀行 プール開きの前の仕事

やっと終わった。デッキブラシを片手に周りを見回す。
この瞬間は一仕事終えた達成感と言うか、汚れが全て落ちた爽快感と言うか、まあスッキリした気分だ。
小学校のプール。梅雨のど真ん中、夏の一歩手前、水泳の授業が始まる前のその場所に今私はいる。
空はどんより曇り空。雨が振っていないだけマシだけど、蒸し暑さが少し気に障る。
さて、綺麗になった水の入っていないプールを見て、改めてこれを一人で掃除した自分を褒めたい気分だ。
だけど、まだ仕事は終わっていない。
まだ綺麗になっていない所があるからだ。
そしてここからが私の領分でもある。
短パンのポケットから、取り出したのは愛用の数珠と使い捨てのお札。
プールをデッキブラシでこすっている間にも感じていた、蒸し暑さとは別の不快な感じ。
陰陽師の血というは、ホントにめんどくさい。
それでも大昔は、怨霊や悪霊と戦ったりして、人々に尊敬されていたと聞くけど、この現代情報社会、未知なるものへの畏れは薄まり、私のような陰陽師の末裔は今や市役所と提携して、半分ボランティアのような仕事をしていかないと生きていけない始末。
今日の仕事は小学校のプールの掃除と、「ついでに」悪霊祓い。
しばらく使われていない施設には、霊が住み着きやすい。
このプールにも低級霊が何体かいる。
放っておいても、大それたことをするとは思えないが、水難事故に繋がらないとも言い切れない。だからプールの掃除と一緒に、低級霊の掃除も私がやるのだ。
この時期、学校のプール掃除は貴重な収入源だから仕方なくなるが、過去大妖怪と戦ったご先祖様は、末裔のこんな姿を見て何を思うのか。
梅雨の重い空模様は当たり前だけど何かを答えてくれるわけではない。

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