空想お散歩紀行 重い想い呪い買い取ります
街から離れた森の入口付近にその店はある。
「カース・カース」
看板には店名といっしょに、リサイクルの文字も添えられている。
「これだと、2500ってところですね」
「そこを何とかもう一声」
「じゃあ、2650。これ以上は無理ですね」
店内では店主と客がカウンター越しに交渉を繰り広げていた。
リサイクル店だけあって、客が持ち込んだ物を買い取るのもこの店の役割の一つだ。
「分かった。それでいいよ」
「ありがとうございます。どうです?せっかくですから、何か買っていかれては?」
店主に促され、店内を見回す客。店内には自分と同じような客が3人いた。皆、商品をじっくりを見定めようとしている。
「この包丁は?」
客がカウンターに近い所に置いてあった一本の包丁を手に取る。
「それは最近入荷したんですよ。とある女が付き合ってた男がいたんですが、その男が5股を掛けてたってことで怒った女がその男を刺した包丁です。女は今も牢の中で恨み言を言っているそうですよ」
淡々と商品の説明をする店主。客の方も驚きの表情を出したが、その理由は包丁の背景ではなかった。
「へえ。そんなもんよく手に入ったな。普通は警察に押収されるだろ」
「まあ、うちには特別なルートがあるんで」
「だけど、色恋の末の刃傷沙汰なんて特に珍しくはないな」
「そうですね。だからお値段もお手頃です」
この店で扱われている商品は様々あるが、一つの共通点があった。
それは、呪物だということ。恨みつらみ、後悔に無念、人の、時には人ならざるものの負の情念がこもったアイテムを買い取り、販売している。
「あ、そう言えば最近いい物が入りましてね。マガフク様って知ってますか?」
「聞いたことあるような、ないような・・・」
「とある呪いの名前なんですけど、なんと1000年ものの呪いなんですよ」
「それはすごいな」
「で、そいつはとある森の奥深くにある大樹に封印されてるんですけど、その樹に巻きつけてある封印のしめ縄があるんです」
「なるほど」
「それは数十年に一度の頻度で新しい物に付け替えるんです。今回何と運のいいことに、古くなったしめ縄の一部が手に入ったんで、それを編みなおしてロープにしてみました」
ここはリサイクルショップなので、どんな呪物が手に入ろうと、それを再び生活の中で使える形にする必要がある。
「元が封印の道具なので、正確には呪物とは言えませんが、超強力な呪いに触れ続けてた物です。すごいでしょ?」
「確かにな。で、いくらなんだ」
店主は客の耳元に口を近づけ小声でささやく。
「う、さすがにそれは手が出んな」
「ですよねー。私もこれがいつ売れるのかなんて分かりませんよ」
呪物専門リサイクルショップ「カース・カース」
今日も鮮度の高い呪いが店内に並んでいる。
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